木立の中に建つ洋館は、元はさる華族出身の人物が所有していたという由緒あ

るもので、沢渡さんのひいおじいさまの代から、沢渡家の所有になったという。



「別荘の管理もそれなりにかかります。

要するに手放さざるを得なかったようです。 

けれど誰にでも譲るのははばかられる。 

そこで、縁者である曾祖母が嫁いだ我が家に、どうかと話があり、

今に至るというわけです」


「ということは、おばあさまは由緒あるお家の出身ということなのね」


「家柄だけはね。曾祖母が結婚する頃にはもうだいぶ傾いていたのに、

プライドだけはひと一倍高い家系で、町医者の家になど嫁にやってと、

さんざんに言ってた本家が、結局はすがってきた」


「そうだったの。だけど、町医者の家になどなんて、とっても失礼な言い方ね」


「曽祖父は医者の腕より事業の才覚がある人で、

病院を大きくしていたのが気に入らなかったんだろうね。

美那子さんも、町医者と結婚したわけだ」


「そうなるわね。私は良かったと思ってるわよ。ふふっ」



ご夫婦になられたばかりの沢渡さんと美那子さんの会話は、以前と変わりなく

軽快だったが、夫婦間の遠慮のないやりとりが微笑ましい。



「この近くに、シロナガスクジラ氏の別荘もありますよ」



沢渡さんが隣りに座る宗に視線を送り、二人で含み笑いをしている。



「もぉ、なによ。そんな楽しそうなこと黙ってたなんて、

ひどいと思いません?」



美那子さんの呼びかけに紫子さんが 「ホント、知っていたら喜んで加わった

のに」 と応じ、霧島さんの婚約者の美野里さんは、控えめに微笑み頷いて

いる。

「私もお力になりたかったわ」 と答えたのは、去年の事件でホテルに監禁さ

れていた私の救出に活躍してくださった、狩野さんの奥さまの佐保さんだった。

蒔絵さんと顔を見合わせ頷きあっているのは、宗の秘書の浜尾真琴さん。 

彼女は異臭事件で、沢渡さんの病院にかくまわれたことから、沢渡さんご夫婦

とお付き合いが始まり、今日は友人として招待されていた。



「黙ってたのは悪かったけど、これは男同士の結束があってのことだからね。

話すわけにはいかなかったんだ」


「なにが男同士の結束です。みなさんで、楽しい悪巧みをしてたんでしょう」


「悪巧みじゃないよ。宗一郎さんの役に立ちたい、

そう思ったからみんな参加したんだ。だけど、実際楽しかったな」


「ほらごらんなさい。男性が顔を寄せ合って、

悪巧みを企てたってことじゃないの」



夫婦喧嘩になりそうな二人を 「まぁまぁ、ここは穏便に」 となだめたのは、

先月帰国した知弘さんだった。

今日は沢渡さんと美那子さんの結婚披露パーティーだが、気軽に楽しく過ごし

ましょうというお二人の提案で、主催者も招待者も一緒に企画する会になって

いた。