白洲家の面々と仲立ちの内藤夫人を見送ると、私だけでなく両親からも深いた

め息が漏れた。

疲れきった私たちを見かねたのだろう 「ひと休みされてはいかがでしょう」 

と狩野さんが案内してくださった

ラウンジで意外な人に出会った。



「霧島さん」


「これは、みなさまおそろいで」


「その節はお世話になりました」



母の口から出た、ごく当たり前の挨拶を聞きながら、私の中で何かがひっか

かった。

さっきも同じ台詞を聞いたような……



「珠貴さんがご両親とご一緒にいらっしゃるということは、

良いお話でもありましたか。

いや、これは立ち入ったことを申しました」


「いいえ、そうですの」


「もしや、お相手は白洲さんでは? さきほどロビーでお見かけしたので」


「えっ、えぇ。霧島さんは白洲さんをご存知で?」


「そうですか。白洲さんですか……」



私の見合いの相手を、知っていたかのように言い当てた霧島さんは、白洲さん

ですかと言ったっきり言葉を濁してしまった。



「霧島さん、何か気になることでも?」


「いえ、あの、僕の口からは……」


「何かご存知ですの? おっしゃって」


「すみません。うかつに口にすることではありませんので、

申し訳ありませんが」



いかにも何かありげに言いながら、霧島さんは言葉を濁し、一言ももらすこと

なく頭を下げた。

そうなると気になるもので、両親が 「そこをなんとか」 と詰め寄ったが、

霧島さんはかたくなに断るばかりで、たいした会話もないまま彼は立ち去って

しまった。





「あなた、このお話は、お断りしたほうがよろしいかと」


「だが、簡単にはいかないだろう。白洲家だけではない、

仲人にまずは話を通さなければ」 


「そうですね。お断りするには、内藤さまを説得できるだけの理由が

いりますものね」


「霧島さんは何か知っているようだったが……調べてみるか」


「大事なことですから、あなた、お願いしますね」


「うん、きちんと形を整えた方がいいだろう」


 
両親の心の中が手に取るようにわかる。

乗り気だった縁談だったが、相手方に仕切られ不満がでる。

滅多なことを口にしないはずのホテルマンの狩野さんから、不安になることを

耳打ちされ、相手に疑問が浮かび、目にした態度でさらに不満が募った。

そこへ、信頼している霧島さんが登場し、いかにも何かあるぞと言うような含

みを持たせた言葉を残す。

これで、両親の気持ちは断る方向へと傾くはずだ。


誰かが組み立てたシナリオが、着々と現実のものになっていく。

どこかで、満足そうに笑みを浮かべている宗の顔が浮かんだ。