取り戻したぬくもりを感じたくて、日に何度となく珠貴を抱きしめた。
ソファに座る珠貴の背中から手を回すと、振り向いた目が呆れたように私を見
つめ返した。
「また……どうしたの」
「なんとなく……」
「私、どこへも行かないわ。安心して」
「わかってるよ」
わかってると言いながら、腕を離すことができない。
宗がこんなに心配性だと思わなかったわと、珠貴が笑いだした。
「会えなかったのは二週間くらいよ。私より、宗の方が重症ね」
「最後までいてやれなかった。だけど、それは……
いや、何を言ってもいい訳にしかならないな」
「わかってるわ。この話はもうおしまい。ねっ」
私の顔を両手で挟み、額をコツンとあわせる。
「わかっているわ」 と言い聞かせるようにもう一度つぶやいた唇が、私のもと
へと重ねられた。
彼女の緩やかな口の動きに応じていると、揺れていた心が凪いでくるのだった。
癒されているのは私の方かもしれない。
仕事で疲れた体も珠貴の懐で安らぎ、深く眠ることができた。
急病と休暇で得た一週間の休みをどのように過ごそうか、二人で計画を立てた。
遠くへ足を伸ばしたいところだが、表向き病気であるため平岡がそばにいること
になっている。
一日一回は彼の顔を見て、報告を受けなくてはならない。
朝出かけても夜には戻らなくてはならず、その範囲で行ける場所を選び出し、
翌日からさっそく出かけた。
土地勘のある珠貴が選んだのは古い建物が続く通りで、中世の建築様式が居並
び、それは見ごたえのある街並みだった。
私にとっては初めて足を踏み入れる場所ばかりだったが、君には珍しくない風景
だねというと、宗と一緒に歩くのは初めてだから新鮮だと嬉しいことを言って
くれる。
一人で街を歩くのも悪くないが、冬のさなか腕を組み、互いの体温を感じながら
歩くの喜びは格別だ。
そばにいてくれる、それだけでいい。
ほかにはなにもいらない。
辛く不安な日々を過ごしたあとだけに、あたりまえの時間がとてもありがたく
思えるのだった。
明日は反対の地区に行ってみましょうねと提案する珠貴に、「うん、地元のレストランにも足を運んでみよう」 と次の予定を楽しく語り合いながら帰路についた。



