次の日から、さっそく作戦を開始した。

朝食のサラダを残し、皿の底に部屋にあった小さなペーパーウェイトを隠した。

次にランチの皿には、洗面所から持ち出した綿棒をいれ、夕食のスープカップ

にはクリップを沈めた。

翌日も小物を見つけては食事のあとの皿に隠すように入れ、今日で三日目に

なる。

そろそろ気がついているはずだ。


夕食後に出されたハーブティーカップの底に沈めるために、宗からの贈り物の

指輪をはずし、祈るような気持ちで握り締めた。

もしかしたら、これまでのメッセージに、誰も気がついていないのかもしれ

ない。

大事なリングも、そのままゴミとして処理されてしまうかもしれない。 

けれど、そんな不安に襲われながら何かをせずにはいられない。

石がはめ込まれたリングは海外ブランドのもので、国内ではほとんど目にする

ことはない一品だった。

下げられた食器を手にした人が、こんなものが入っているなんてと不思議に

思ってくれればいい。

それまでも皿やカップの底にさまざまな物が沈められていたが、今度は指輪が

出てきたと、誰かに相談してくれたら……

願いを込めて、ハーブティーカップの底に指輪を沈め、カップにふたをした。


翌日の朝食にはイヤリングを片方入れた。

私と宗をつなぐ大事な品だったが、 だからこそ ”誰か気がついて……” 

と願いを込めて、食器とともに外へと送り出した。

それなのに、いまだに何も反応がない。

食器からアクセサリーが出てくれば 「忘れ物ですよ」 と、部屋に届けに来て

もいいはずなのに、それさえもなかった。


これで気がついてもらえなければ、私の希望も消えてしまう……

いいえ、希望を捨ててはいけない。

頭を振ってマイナス思考を追い出した。

ポケットの中残っているのは、片方だけのイヤリングだけだ。

これが最後のメッセージとなる。

お願い、誰か気がついて。

昼食に出されたサラダを多めに残し、大事なイヤリングを皿の底に忍ばせた。