3月9日

サメの大きなやつが一本つれたが、瀬能正文は食べる気力もなく、やせおとろえて死亡。水葬に処す。

3月15日

それまで航海日誌をつけていた沢井穣治が病死。かわって坂下祐作が筆をとる。沢井の遺体を水葬にするのに、やっとのありさま。全員、顔は青白くヤマアラシのごとくヒゲがのび、ふらふらと亡霊そっくりの歩きざまは惨たらしい。

3月27日

門田陽一と鎌重初児のふたりは、突然うわごとを発し、「おーい富士山だ。アメリカにつきやがった。ああ、にじが見える…」などと狂気を発して、左舷の板にがりがりと歯をくいこませて悶死する。いよいよ地獄の底も近い。