「兄貴の話なら、此処がいいと思って」
木暮はそう言いながら、仏間の襖を開けた。


其処には小さな仏壇に納められた位牌と写真があった。


真っ先に木暮の兄貴の遺影に手を合わせる。
それが礼儀だと、家を出る前に母に教えられた。
合掌しながら、まだまだ未熟な自分に気付いた。


(――母さんありがとう)
妙に素直な自分の出現に少し戸惑ってはいた。




 目の前の写真の木暮敦士は金髪では無かった。
茶髪のロン毛だった。


それはあのゴールドスカルに触れて見た、意識とは少し違っていた。


「あの金髪じゃ?」


「ん。……あ、そうそうデビュー前に金髪にしたんだそうだ。でもこの茶髪は本当は違うんだってさ」


「え、何が違うの?」


「兄貴は介護ヘルパーだったんだよ。仕事にこんな頭じゃいけないらしくてさ、鬘なんだって」


「確かロックだったよね?」
俺の質問に木暮は頷いた。


「鬘で大丈夫か?」

俺は頭の中で、ボンドー原っぱのパフォーマンスを思い出していた。




 舞台狭しと暴れまくる彼がもし鬘だったら……


(――踊りまくっている内に鬘がポロリ……)
想像しただけで可笑しくなってきた。

でも俺は必死に笑いを堪えていた。
此処で笑ったら失礼過ぎると思ったのだ。


でも木暮は俺の変化に気付いたようだった。


「瑞穂。もしかしたら……、鬘がポロリなんて想像した?」

いきなりの直球で俺は慌てて……
それでも仕方なく頷いた。




 「やっぱりな。実は俺も想像してたんだ。ホラ良くロッカーはヘッド何とかってやるだろう?」


「あぁ、ヘッドバンキングか?」


「あれやりながら、それでも必死に鬘を押さえてる兄貴を思い浮かべて……」

何処からか噛み殺したような笑い声が聞こえた。

良く見ると、それは木暮だった。
木暮の肩が小刻みに震えていた。

泣いている訳ではないのだ。


俺もそれを見ながら、遂に笑い出していた。