俺はデパートの従業員用エレベーターの前で亡くなったロック歌手・木暮敦士の弟を訪ねることにした。

ソイツは木暮悠哉と言って、俺の中学時代の親友だった。


サッカー部のエースになると言う、同じ夢を見ていた仲間だった。
彼も俺同様に身長が低かったが、パワーだけは超一流だった。

でも兄貴の不遇の最期を見て、意気消沈してサッカーを辞めてしまったのだ。
結果俺がエースになった。
もし……
そいつが残っていれば、俺は……
そんなことを俺は何時も考えていた。




 木暮は俺とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほが殺されたと解った時物凄く腹を立ててくれたんだ。


俺はどうしようもなくて、あの日事件の全てを木暮には話したんだ。

千穂の俺に対する恋心まで話したら……


『それは感じていた』
ダメ出しにそう言われてしまった。


俺はどうしょうもなくなって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていた。

今思うとどうかしていたと思う。

なぜあんなにムキになったのだろ?

それはきっと、俺が木暮を頼ったからなのだ。

木暮は確かに俺の親友だったんだ。

だから聞いてもらいたかったんだ。

だから余計に自分を正当化したのかも知れない。




 玄関のチャイムを鳴らすと、木暮が飛んで来た。


『木暮の兄貴のことで話がある』
と、電話しておいたからだと思うけど。

でも流石にボンドー原っぱのことは言えないと思っていた。


「あれっ瑞穂、少し大きくなってないか?」

流石に俺の親友だ。
一番気にしていることを然り気無く誉めてくれる。


(――ん!? っていうことは少し伸びたのかな?)

俺は嬉しくなって、木暮の次の言葉を待った。


「ホラ、兄貴の葬式の時確かこん位だった」
木暮はそう言いながら、玄関の扉に付いているチェーンを指差した。


「なぁんだ、中学の時と比べてか? 当たり前だろうが」
俺は少しがっかりしながら、靴を脱いで木暮の後を追った。