カフェに戻ると、松尾有美が不思議な行動をとっていた。

物陰に隠れてボックス席を監視している様子だった。


俺はそっと肩を叩いた。

松尾有美は驚いたように俺を見た。


「ん!? もうー、びっくりさせないでよ!」

有美は跳ね上がった肩を少しずつ下ろし、胸の辺りを手で押さえていた。


俺が余りに早かったからすっかり油断していたらしい、声が裏がえっていた。


「それよりあの二人、何かおかしいんだけど」

松尾有美が指を差した席には、例の二人がいた。


「ねえ磐城君。女装探偵なんでしょう? あの二人探らない?」


(――えっ!?)
俺はそれを聞いた途端にフリーズした。




 「知っていたわよ。勿論みずほもね」

松尾有美はウインクした。


「えっっっーー!?」
俺は余りにも驚き過ぎて、突拍子もない声を出していた。

慌てて有美が俺の口を手で塞いだ。


(――まさか……

――まさか……

――そんなーー!!)


俺の慌て振りを見て、有美はしてやったりと言うような表情を浮かべた。

それが又……

何て言おうか、物凄く可愛い。




 「さあ叔父さんの探偵事務所に行って女装よ」

有美の言葉に俺はもっと驚いた。


「バレていたのか?」
俺がしょんぼり言う。


「うん。余りに可愛かったから、後で強請ってやろうとみずほと笑ってた」


(――おいおい……)
俺は落ち込んだ。

有美はまるで俺の弱点を探し出そうとするかのようにビッタリ密着した。


(――ヤベー。心臓バクバクだよー!)

こんなことは始めてだった。

今俺は、俺を女装探偵だと知ってる女性に腕を組まれている。


俺はみずほに誤りながら、非常事態ツーショットを有美に許していた。


いや……
許さざるを得なかったのだった。