もう、40年程も前になるのだ。

踊る事だけが楽しみだった自分。単純で分かりやすい愛情をぶつけてくる夫。

女性に何をプレゼントしたらいいかなんて少しも考えない。一緒にご飯食べよう。一緒に帰ろう。家まで送らせて。映画を見に行こう。美術館へ行こう。君が好きなら歌舞伎を見に行こう。そういって、歌舞伎座の真ん中の席で大きな体を丸めて寝込んでしまったこともあった。

踊りの会に来てくれたときだって、踊っている自分を本当に見ていてくれたのか怪しいなあと今でも思うのに、人生とは本当に不思議な縁だ。

あの頃には思う事もなかったけれど、結局は彼と結婚して、二人の子供を産み、子供たちは幼稚園・小学校・中学校、そして反抗期、高校、とつつがなく成長した。

ある日突然病に倒れた子供は果敢に病と戦い続けたけれど、結局その子を喪った。人の命なんてとても儚い。

ライバルのような友人を喪い、踊りの師匠を喪って、初めて踊ることが苦痛に思えた日があった。

それでも、踊りを続けていたのは一体何がそうさせたのだろうか。踊らずにはいられない何かが、そんな情熱的な何かが自分の中にあったとはとても思えないけれど。

やがて時は過ぎて、娘が嫁ぎ、孫が生まれて、自分の母親と夫の両親を見送った。楽しい日も辛い日も踊り、そうすることで自分の人生に起こり続けるものを受け入れてきたのだ。それを許し続けてくれた夫の傍で。