俺は立ち上がって、自分の荷物をまとめて持つ。
残念だ、そう言った。
俯く彼女の髪の毛に枕の羽毛が引っ付いている。それを指で掴みとって、ゴミ箱へ捨てた。
それは緑色のプラスチックのゴミ箱の中でふわふわと漂い、中々下に着地しない。
まるで、俺みたいだ、そう思った。主に、ふらふらとしているところが。
背中を丸めている彼女を見る。
「じゃあね、今までありがとう。君のご飯は美味しかったよ。体には、気をつけて」
そう言って、玄関で靴を履き、ドアを静かに閉めた。
・・・まーた、振られたなあ~・・・・。
街は昼下がりだった。
俺はふらりとその喧騒の中に紛れ込む。別に行き先を考えもしないでただ人波の流れに従って歩いていた。
俺は神谷春嵩(ハルタカ)という。職業は名刺を持たないフリーライターで、いつでも何とか食ってるって状態だ。
知り合いのツテを頼って仕事を貰っている。雑誌やチラシ、パンフレットなどに文章やコピーを書いたりしている。そして毎日は、大体いつでも休憩時間だ。
金はないし、所属場所もない。だけど代わりに、俺には時間と自由がある。



