あたしが陵雅さんの教室に行けばいつでも会えたのに、受験や卒業の準備で忙しいだろうと思ってなかなか行けなかったんだ。
「久しぶり」
陵雅さんの静かで大人びた声に安心する。
「陵雅さん、合格おめでとうございます」
あたしが言うと、陵雅さんは微笑みながら頷いた。
「もう卒業ですね」
「ああ。
時間過ぎるの、早いよな」
陵雅さんに言われて、ジワリと涙が浮かぶ。
「湯野と付き合い始めたんだって?送別会の時、みんなが騒いでた」
あたしは唇噛んで照れながら「はい」と頷く。
「よかったな。湯野なら、新堂のことよくわかってるし大切にしてくれるはずだよ」
ウシシと、あたしは歯の隙間から息を吐くように笑った。
「陵雅さん、引っ越しの準備は順調ですか?」
「うん。もうほぼ終わったかな?今ウチ来てみろ。段ボールしかなくて生活感ゼロだぞ」
陵雅さんが笑うので、あたしも一緒になって笑った。
そしてすぐに、陵雅さんの表情がしんみりする。
「決めたのは俺だけど、ずっと育った街を離れるのって、やっぱ寂しいよな」
……陵雅さん。