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~2009~

「野原千愛さん」
「はい!」

赤いカーペットの上を、
校長先生の前まで歩いていく。
卒業証書をもらって、席につく。

呼びかけ。
合唱。

式はあっという間だった。

昨日までは練習だったのに。
今日でほんとに卒業なんだね。

お世話になった学校。

クラスに戻って先生の話を聞いてたら
泣けてきて、隣の席のはること
わんわん泣いた。
男子たちに笑われたけど、だって、寂しいもん。

全部おわってから、
外で写真撮ってたら
男子たちが遊んでた。

………………

……………あ。

あたしの目線の先には
【辻 竜芽(つじ りゅうが)】。

席がよく近くで、割と仲がよかった。

…辻、あんなにかっこよかったっけ。

なんてこと思った。
みんなとおんなじように
遊んでるだけの竜芽が、
きらきらして見えたのは、
涙のせいだったのだろうか。

春休みに、親友のしぃに話したら、
「恋でしょ!!!!!」と。

しぃ。
【石森 しなつ(いしもり しなつ)】
あたしの親友。
交換ノートしてから仲良し!
あたしのこと、誰よりわかってる。

そんなしぃが得意げにいうんだ。
「小説とかマンガとかでよくある
恋のはじまりってやつだよ!!」って。

確かにそうかもしれないって思った。

そっか…恋。

胸が、ふわってした。
きゅーって、あったかくなって。

しぃの、言うとおりなんだろう。

辻は優しい。
さりげなく。

あたしが体育館に忘れ物したとき、
頼んでもないのに走ってくれる人。

言ってることがふざけてて
ときどき腹立つけど、
シャイで野球がんばってる。

丸顔だけど優しい顔してる。

いつもGAPの服着てる。
迷彩柄ばっか着てる。

そんな人。

うん…
あたしはどうやら辻に、
恋をしたみたいです。