溺れる月

キリキリと痛み出した胃をおさえながら


海沿いの道を歩く。


湿気った風が身体を包み込んでいく。


海の匂い。


いや、港の匂いだろうか。


甘いような香ばしいような、


そしてちょっと生臭いような。



この町独特の匂いが、


僕は未だに好きになれない。


この匂いを意識してしまうと、


胃が拒否反応を起こしてしまう。


鼻をつまんで、駅まで小走りをする。


しかし、やはり耐え切れずに駅のトイレで吐いた。




涙と鼻水と汗と。


顔中の穴から汁が噴き出す。


背中はずっとぞくぞくと寒い。


まるで貧血を起こした時のように、


周りが薄暗く、僕の周りだけがゆれている感覚。



壁との距離感が掴めない。



胃液と一緒に朝食が、


いや、

朝食だったものが便器の中に


音を立てて落ちていく。


全てが、薄茶色のどろどろしたものに


なりかけているのに、


サラダに入っていたプチトマトの皮だけが


赤くぬめぬめと光っていた。