慌てて、通話ボタンを押すと


雑踏と混じって母の声が聞こえた。


「・・・のね・・・うたくんのお母さんから・・・きてね。」


所々、雑音と混じって聞き取りにくかったが、


その話は僕を大きく動揺させた。


宗太が、僕に宛てて書いた手紙が見つかったらしく、


それを受け取りに来て欲しいと宗太の母から連絡があったと言うのだ。




 電話を切ると、ビニールの袋に入った小さな赤い金魚を持った雫が駆け寄ってきた。


「三回やっても取れなかったから、店のおじさんがくれたの」


 そう言って笑ったが、やがて僕の様子に気付き顔を覗き込む。


何でも無いよ、と無理やり笑顔を作る。



 暗い帰り道を歩いていると「何かあったの?」と雫が心配そうに訪ねてきた。


話して楽になってしまおうか。そう思った。


だけど何から話していいのかわからず、ただ雫を見つめていた。


すると、雫が僕の手をぎゅっと握り真剣な面持ちで話す。



「いいよ、言って。あたし、ヒロ君のこと嫌いになったりしないよ。」



雫の手は暖かくて、


名前で呼ばれたのは初めてだと考えられる程まで、僕の心を落ちつけた。