「なんで、真昼に月が見えるのか知ってる? 」


雫が嬉しそうに僕に問い掛ける。


知らないとかぶりを振ると、


「月は他の星より、全然地球に近い所で強い光を放ってるの。


だから天候とか湿度とか、


いい条件が揃うと太陽の光を打ち消して、真昼の月が見えるの」


僕は、すっかり感心してしまい、感嘆の声を上げた。


昼に見える月は、月光の眩しさとはちがって、


なんだか寂しげだった。


「月を見るの、好きなんだ?」


そう訪ねると、雫はかぶりを振って言う。


「ううん。空を見上げるの、癖なの。」


そういえば、気にはなっていた。


雫は、病院の待合室でも、


初めて話した日も空中を見ていることが多かった。


最初は、考え事でもしているのかと思っていたが、


それにしては多すぎる。


爪を噛む人なんかは割といるけれど、こんな人は初めてだ、


と考えていると、雫がまるで何でもないことのように言った。



「あたしね。ママに虐待されてたの。」


そう言って、視線を降ろして僕の方を見る。


まるで品定めをする様に。


この人は、どんな反応をするだろう? 


それを見るかのようだった。



「育児放棄っていうみたい。


小さい頃、部屋の隅に置かれたダンボール箱にずっと入れられててね。


泣いたりしたら怒られるでしょ。


だからバカみたいに、天井を見てるしかなかった。


それで、こんな癖がついちゃった。」