あまりにも真剣に見ていると、


切るところ見る?とカッターを取り出し、


実演してくれた。


刃先が白い素肌にあたると、その後ろから血液が滲む。


まるで、絵筆で描いている様にすーっと線が引かれていく。


「辛い時に、切るとね。


少しだけ気持ちが楽になるの。


ちょっと痛いけどね。」


そう言って、彼女が刃物を腕から離した時、


僕の中に、ある考えが持ち上がった。


それは、直感だったけど、多分間違ってはいないだろう。





「雫は、僕と同じなんじゃないか。」




僕が、吐くように、雫は腕を切ることで生きてるんだ。


そうすることで生きていけるんだ。


その時、突然、音を立てて雨が降ってきて僕と雫を濡らした。


雫の腕に、赤い川ができていく。


不意に彼女が耳元で囁いた。



「あたし、もうすぐ死ぬの」



彼女の腕から流れ出た血は、雨と一緒に海へと流れて行った。



その雨は、この小さな港町に夏の終わりを告げていた。