「あの方がわたくしを呼んでいるの?」

誰もなにも答えない。
女性は空を見ることは出来ずため息を零す。

あの方が呼んでいても会うことは許されず、言葉を交わしたこともあまりない。
どうして、どこに惹かれたのか?

こうして外に出るのは何年ぶりなんだろう?

「わたくしを連れ戻してあなたがたに褒美がでるのでしょ?」

答えないとわかっていても嫌みは出る。

「我々の主はあなたではありません」

もう一度、ため息が出てしまう。

「そうね……」

「妃乎(ひめこ)さま。
あなたに自由はありません」

チャラい男が女性、妃乎の髪を一房掬い自分の唇に寄せる。

「……」

髪を掬っている手を払いのけ怒りを露わにする。

「おぉ〜怖っ。
主(あるじ)の婚約者、違うな。
婚約者にもなれない人が、あの方に目を付けてもらえなければ……」

「やめて!!
それ以上言わないで!!」

今にも泣きそうな顔でチャラい男を睨む。

「もういいだろ」

「はいはい」

まだなにか言い出そうにしていたが男は諦めた。
ここで泣きたかった。
それはできないこと。
一人になっても泣けれない。
泣きたいのに泣けれない。
悲しいとはなんだろう。
あの方を思い目を閉じる。