部屋を出て長い廊下をただますぐに行くと暉が言っていた温泉があった。
着ている服を籠に入れタオルで体を隠し温泉を見渡す。

「すごい」

個人の家で温泉があるなんて、と驚き湯船のお湯を体にかける。
老舗の岩風呂のようだ。

「気持ちいいか」

「ひ、暉さん?」

「ああ」

隣の温泉からジャブジャブと音を鳴らす。

「……ごめんよ」

「なにが?」

「……いろいろ、と。
……驚いただろ?」

「あ、うん……まぁ、ね」

この家の中で指輪がどんなに大切がわからない。でも、兄が指輪に執着するように妃乎と迅と呼ばれたここでは神に近い人も強い執着してたように思えた。
それに、人から動物に変身する。どう言う原理で変身するかはわからないままだが、暉の他にも動物に変身する人はいるようだ。

「ねぇ、あなたの他にも……」

聞きたいようで聞きたくない。

「なんでもない」

「そうか」


なにも嵌めていない指を空に翳し兄の顔を思い出す。
怖がった。
あの時、指輪を渡せばよかったのかな?
家に帰れば聞けるかな?

「う〜ん。
気持ちいい〜」

手足を伸ばし温泉から立ち上っている煙を体の奥まで吸い込み、そして吐く。