季節はずれの雷雨で体が冷えてしまった。
暉は着ている上着を祀莉に渡す。

「これは?」

「着てろ」

顔を横に背けなるべく祀莉を見ないようにする。

祀莉は自分の姿を見て慌てせ暉の上着を受け取り恥ずかしく感じる。

――クシュンッ

「寒いのか?」

風はないが温度が少しずつ下がってきてるのか両肩を抱いて振るわせる。

「お前は普通の人なんだよな」

暉たち“後継者”候補は普通の人よりは体は丈夫で風邪や具合が悪くなることは皆無で骨が折れても病院に行くことはない。
屋敷内には医者がいるから外から医者を呼ばなくてもいい。

「……いいよな」

「なに?どうしたの?」

「この奥に……温泉がある。
入ってきたらどうだ」

部屋の奥を指差した。

「温泉?」

「濡れた服はお手伝いが取りに来させる。着替えの服もそんときに入れとくから」

と、言うと体力が戻ったのか妃乎の部屋を出て行こうとする。

「出たらここにいるんだ」

「どうして」

「あいつに会いたいか?」

「……」

お腹を蹴った男の顔を思い出す。
怖がった。

「会いたく、ない」

楽しんで蹴っていた。
あの男に痛みは感じるのだろうか?
どこかでまだ見てるんじゃないだろうか?