妹を気づかう余裕もなく兄は指輪を光りに翳してみた。

「帝人(たいと)兄さん」

「もういいでしょ。それ返してよ。
私が……自分で買ったものよ」

これは嘘。
公園にいた女性が祀莉に渡した指輪。
どうして兄さんがこの指輪に執着するのがわからない。

やっぱり返しに行くべき?
と、チラッと考えた。
でも、指輪を兄さんから取り返すことが先だ。

「なにか書かれてなかったか?」

「なにか?」

「そうだ。文字。
――K。と」

「K……」

指輪を祀莉に返しながら言う。

「Kとは神谷のK」

「……神谷……」

「なにか心当たりあるのか?」

「ない」

兄に嘘を付くのは辛い。
祀莉は兄のことがわからないときがある。
逆に兄は私のことわかっているのかな?
指輪を嵌め「これは本当に最近、自分で買ったの」最後、「本当よ」と付け加えて、社長室から出て行く。