――ドンッ

重たい物が壁に当たり壊れた。
物が壁に当たっても心は痛まない。
投げる物がなくなれば黙るしかない。

「当主様」

「……」

襖(ふすま)を開け入って来たのは白髪混じりの怒りを露わにした女性が男性を睨んでいる。

「あなたはまだあの人のことを考えているのですか?
あの人はだめです。
他の“後継者”候補から選んで下さい」

「どうしてだめなんだ!
わたし、オレ……はあいつに相応しくないのか?
――違うだろ!!
それはお前らの意見だ!!
オレはあいつを好きになれないのか?」

「なれません。
あなたはこの家の当主(かみ)です」

女性の視線を感じながら男性はただ黙って睨むしかなかった。

女性が出て行くと男性は目の前に転がっている大きなイルカのヌイグルミが目に留まり、それを抱きしめ一人声を殺して泣くしかない。



――当主になってもわたくしは変わらずあなたを愛するから

そう言って女性はイルカのヌイグルミを渡した。

「……」

どうしてオレが当主なんだ?
当主になってしまったんだ?

今すぐ愛する人に会いに行きたい。
この家から出ることは許されない。
でも、今すぐ行きたい。
男性のたたひとつの願い。