蒼空は扉を押して静かに資材室へ入った。
扉を開けたら、真っ正面突き当たりに小さな窓がある。
蒼空はゆっくりと中に進んだ。
部屋に入ると扉を閉めた。
窓に向かって歩き出した時、右側の壁に扉があることに気が付いた。
蒼空は立ち止まり、扉を見つめた。
「隣の部屋に中でつながっているんだ…。」
優羽は現在授業中。他の生徒が別棟に来ることもほとんどない。
〔よし!〕
蒼空は中扉のドアノブを回した。
中扉のドアノブはすんなりと回り、手前に扉をひいて開けることができた。
隣の部屋は資材室より窓が大きく、部屋が明るい。
「何の部屋だろう?」
蒼空は中には入らず、隣の部屋を見渡した。
普段授業を受けている学年棟の教室の半分ほどの広さの部屋で、部屋の中央には会議用のテーブルが置かれている。
テーブルの周りには10人分の椅子が並んでいた。
中扉から見て突き当たりの壁際には、なんだか厳重に管理されてそうなロッカーのようなものが三台並んでいる。
左側には窓があり、その壁際にはソファが二台向かい合わせで並んでいた。
「…さっぱりだわ…」
蒼空は部屋を見ても、なんで優羽が昨日いたのか判らなかった。
その時、資材室側の蒼空の右横にコピー機が置いてあることに気が付いた。
最新の物ではないが、そこそこ新しい感じのコピー機だ。
「ん?」
蒼空はコピー機の側面にシールを見つけた。
『梅ヶ丘学園生徒会所有物』
蒼空は教室でクラスメートたちが優羽を囲んでいた時のことを思い出した。
「そっか!生徒会室!」
優羽が何故この部屋にいたのか判った。
優羽は学園の新生徒会役員に抜擢され、先月から活動を始めているのだ。
昨日優羽がいたのは生徒会室で、その隣は学園行事で使用される道具などが置かれている資材室。
「そういう事かぁ…」
生徒会室なら優羽以外も生徒が来る可能性があるので中扉を閉め、蒼空は資材室側の窓に向かった。
「でも、何でこんな離れに?」
資材室はなんとなく解る。
学園行事以外では使わない物なので、離れた場所の倉庫のような部屋に収納されているのだろう。
しかし、生徒会室は定期的に使用されるだろうし、離れすぎて不便ではないのだろうか?
蒼空は不思議に思いながら、小さな窓に辿り着いた。
窓の下には何故か古びたシングルソファが置いてある。
〔ソファなんて学園行事に使うことあるのかな?〕
蒼空はソファが置いてあることに疑問を感じながらも、ソファの上に膝立ちして乗った。
顔が出せるか出せないか位の大きさの窓は、上に持ち上げて開ける造りだ。
蒼空は鍵を開けて下から窓を持ち上げた。
ガチンと固定される位置まで上げると手を離し、少し顔を出してみた。
下の裏庭を見て、蒼空が座っていた噴水のベンチから優羽を目撃した部屋の位置で間違いないと確認した。
「ここでシャボン玉してたんだ…」
蒼空は顔を引っ込めてソファに座った。
資材室も生徒会室と同様の広さの部屋で、棚が数台並べられ資材が整頓されている。
蒼空はソファに座ったまま、右側に並んだ棚を見上げた。
すると、整頓された棚の中に『防寒道具』と書かれた箱を見つけた。
季節は冬、窓を開けた為に部屋が一気に冷えてしまった。
蒼空は窓を閉めてから棚に移動し、箱を開けてみた。
中には毛布が数枚入っていた。
「ちょっと借りまーす…」
蒼空は毛布を一枚取り出し、箱を閉めた。
そしてソファに戻ろうとした時、棚に肩が当たりその振動で
『カラランッ』
乾いた軽い音が聞こえた。
「えっ!何?!」
蒼空は音のした方向を覗いた。
そこには細い棒が床に転がっていた。
蒼空は近付いて棒を拾った。
そして、その横の棚を見た。
「あった…」
そこにはシャボン玉の液が入った小さなボトルが一本置いてあったのだ。
更にその隣には『地域交流』と書かれた箱があった。
その中にはシャボン玉や、その他玩具が入っていた。
〔地域交流?そんなのあったかな?〕
蒼空は学園行事には興味が無いので地域交流なんてしているかは知らない。
しかし、優羽が使用したであろうシャボン玉セットは恐らく地域交流用の箱から出された物だろうと推測した。
蒼空はシャボン玉セットを棚に置き、ソファに移動した。
ソファに座り毛布を膝にかけた。
「ふー…」
背もたれにもたれ、天井を見上げながら溜め息をついた。
〔駒居君…授業抜けて生徒会室で何してるんだろう。何でシャボン玉してたんだろう…〕
結局優羽の事は何もわらないまま…
〔何かちょっと…しんどいかも…〕
蒼空はシングルソファに丸まるように横になり、毛布を被って意識を失うように眠りについた。