保健室で休むこと10分。
蒼空は既に我慢できなくなり、ベッドから身体を起こした。
上履きを履いて、足音をたてないようにそーっと歩いた。
ベッドのある部屋から処置室をのぞき込むと保健室医は席を外していない。
蒼空はそれを確認して、保健室から退室した。
行く当てはないが保健室でボーッとするよりはマシかと思い、ブラブラと校内を歩くことにした。
〔よく考えたら、教室以外ってほとんど行ったこと無いかも…〕
蒼空は職員室から見える場所をさけ、完全に死角になる方向に歩いた。
教室のある学年棟の渡り廊下を渡り、別棟に入った。
学園の北側に位置する別棟の横には小さな庭がある。
学年棟の裏に当たる場所なので、裏庭と呼ばれている。
〔ここが裏庭かぁ…〕
蒼空は裏庭があるとは知っていたが、行ったことはなかった。
別棟に面していて、どちらかというと別棟付属庭園のように見える。
庭の中央に小さな噴水があり、冬なのに水がしっかりと流れている。
噴水の周りに座る事ができるように、石でできたベンチが造られている。
裏庭の周りは視界を遮る為か、別棟の二階程まである高さの植木が等間隔で植わっており、統一感がある。
〔こんな所があったんだ〕
蒼空は噴水に近づき、噴水横の石のベンチに座った。
「つめたっ!」
真冬のベンチ〔しかも石〕は完全に冷え切っていた。
冷たいのを我慢し、蒼空は自分の体温でベンチが温まるのを待った。
しばらくするとベンチの冷たさは気にならなくなり、堅くなっていた身体の力が抜けてきた。
蒼空は空を見上げて溜め息をついた。
目の前は自分の吐いた息で真っ白になった。
「今頃…みんな勉強頑張ってるんだろうなー…」
本来なら、自分もそこで同じ様に取り組まないといけない……取り組みたいけど……。
〔もう…無理だよねー…無理なんだよ…諦めろ私。〕
どうしようもない状況で、諦めるしかないのに…。
心の葛藤は続いていた。
もう一度溜め息をついて、目の前は白の世界になった。
その時。
真っ白な世界からキラキラ光る何かが飛び出してきた。
〔…ん?〕
蒼空は一瞬息を止めて視界をはっきりさせた。
別棟の3階にある小さな窓が開いていて、そこがまたキラキラと光った。
〔…何だろ…〕
蒼空は開いた窓をジッと見た。
そしてもう一度キラッと光った時、蒼空は我が目を疑った。
「…えっ!?」
驚いてでた声を、慌てて手で口を塞いで止めた。
〔…駒居君!?〕
小窓から顔を少し覗かせたのは特進組の駒居優羽だった。