「蒼空!!」
大きな声に呼ばれて、蒼空は意識を戻した。
ベッドの横から母親が心配そうに、蒼空の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫!?」
「……え?」
目は開いたが、まだ頭はボーッとしている。
〔…なにが?〕
蒼空は自分の部屋の天井を見ながら、頭の中を整理しだした。
朝になって…目が覚めて…それから…
「…っ!!学校遅刻!!」
二度寝したことを思い出し、蒼空は慌てて身体を起こそうとした。
しかし、母親がそれを止めた。
「今8時過ぎよ。今から行っても遅いわ。今日は休みなさい。」
「途中からでもいいよ!」
蒼空は重たい身体を起こし、ベッドから下りようとした。
「いいから!今日は休みなさい!」
母親は少し声を荒げ、蒼空に言った。
普段は良く笑う明るい母親で、怒る姿や泣く姿は見たことが無い。
そんな母親の荒げた声を聞いて、蒼空はびくっとした。
「あなた最近体調悪そうだし、一度病院で診てもらおう?」
「えっ!?病院!?」
蒼空は顔を少しひきつらせた。
病院になんてほとんど行ったことはない。
テレビなどで得た情報を素に、自分の中でイメージした病院は怖いのだ。
「お父さんが血圧の薬もらってる病院に行こう?あそこの先生は優しいわよ。」
母親は蒼空が病院を怖がっているのを察した。
「えー…。今日?」
「そう。じゃないと先延ばしにするでしょう?」
母親は蒼空の性格を見抜いている。
「わかった…」
蒼空は渋々頷いた。
「よし!ご飯は食べれそう?」
「少しだけなら…」
「じゃあ着替えたら降りてきなさいね。」
母親は蒼空の部屋から出て行った。
本当は病院になんて行きたくない。
しかし、最近の自分の身体はなんだかおかしい。
病院を先延ばしにしたいと駄々をこねる元気は、蒼空には無かった。