《2年前》




「行ってきまーす!」


「行ってらっしゃーい」





梅ヶ丘学園高校1年、佐渡蒼空。
難関の特進組にトップで入学した、漆黒のセミロング、大きい目をパッチリさせた150cmの小柄な女の子である。



入学してから蒼空は毎日学校に行くのが楽しくて仕方がない。



何故なら蒼空のクラスは他のクラスや他校に比べて学力が高く、授業の内容もレベルが高い。



勉強が大好きで、勉強が友達と言える蒼空にとって特進組は理想の環境なのだ。



 


そしてもう一つ。大本命の理由がある。




『ガラッ…』




蒼空は学校に到着し、教室の扉を開けた。



まだ7時半過ぎだが、クラスメートは数人登校している。

扉の開いた音でチラッと蒼空の姿を見たが、何も言わずすぐにそれぞれの世界に戻った。

早くから来て予習復習をする、勤勉な生徒がいるのは特進組では当たり前なのだ。




蒼空は自分の席に向かい歩き出した。



蒼空の席は窓際から2列目の一番後ろだ。



蒼空の席の近くには誰もいない。



ほとんどまだ登校していない事もあるが、蒼空に近寄ろうとしないで遠巻きにみているのだ。




『前代未聞の過去最高得点、同率首位入学』の2人の内の1人。




自分こそが一番だと思う気持ちを持った者の集まりでもある特進組の生徒は、尊敬心よりも嫉妬心が強いのだ。



男子からは『女に負けた男としてのプライド』、女子からは『蒼空の容姿端麗への嫉妬』が上乗せされている。



だが、蒼空はそんなことは気にならない。



周りがどう考えているかなんて気にする時間があるのなら勉強をするのだ。




蒼空は自分の席に座り、カバンから勉強材料を取り出して自己学習を始めた。



授業が始まるまでの約1時間、蒼空はいつも1人で黙々と勉強をする。



本当に勉強が大好きで、勉強以外の事に興味を持てなかった。



だが……




『カタンッ』




隣の席の椅子をひいた音で蒼空はハッとした。



蒼空の周りには誰も近付かなかったのに、唯一普通に着席する生徒がいる。



蒼空はチラリと横を見た。



すると、蒼空の視線に気が付いたのか隣に座った生徒と目が合った。



「…おはよう。」



大本命。


隣の席の駒居優羽はにっこり微笑んで、蒼空にあいさつをしてきた。



「おはよう…。」



蒼空は心の動揺を隠し、平然とあいさつをした。



たまに遭遇する優羽との会話に、蒼空は内心ドキドキしていた。



悲しい話だが、蒼空は今まで勉強以外に胸を躍らした経験がない。



周りとの接触がほとんど無い生活を送っているので、そもそも接点が無いのだ。



そんな蒼空が勉強以外に興味を持ったのが優羽だ。



初めて自分と同じレベルの学力の持ち主が存在する事を知り、衝撃を受けた時のことは忘れることができない。