しばらくすると蒼空の呼吸が落ち着いてきた。


優羽は背中をさする手を引っ込めるタイミングがわからず、どうしたものかと悩み出した時、蒼空が話し出した。



「1年の冬に、レベルを下げて2年に進級するか、退学するか決断しないといけなくて…。でも、もうどうでもいいやって…思ってさ…人生初のおサボリをしたの。」


蒼空がチラリと優羽を見た。



「……何?」



優羽は背中をさするのを止めた。



「学校の裏庭のベンチに座ってボーッと空を見上げてたの。そしたら…私の気持ちを晴らすきっかけになる事を目撃したんだよね~。」



〔裏庭…。生徒会室の近くだ。〕



裏庭は一番北側の校舎の裏手になり、生徒会室や資材室など、学年棟から離れた別棟からしか見えない場所である。


だから通常、授業中は誰にも見られることはないのだ。


ちなみに、生徒会は4階建ての別棟の3階にある。




「何を見たんだ?」



優羽はあんな人気の無い場所に、蒼空の考えを変える出来事があったとは思えなかった。



「……それは…ひ・み・つ♡」



蒼空は人差し指を自分の口の前に立てた。



「なんだそりゃ!」


「へへ~ん!気になる?」


「…!ならねーよ!!」



優羽はぷいっと横を向いて立ち上がり、また椅子に座った。



「なぁんだ~、残念!」



蒼空は、優羽が話に食いつかなかった事なのか、隣から離れてしまった事なのか、微妙な言い回しをした。



「まぁ…お陰で3年生になって、こうして優羽ちゃんと話出来てるんだよね~。感謝してるよ~。」


「…きっかけはあったかもしれねーけど、結局、最終的に今の自分になったのはお前自身なんだから…自分に感謝しろよ。」



優羽は、蒼空が謎の出来事に感謝するのがなんとなく気に入らなかった。


勉強以外に興味を示さなかった蒼空の考え方を変えさせた、謎の出来事が思いっきり気になっていた。


だが優羽の性格上、どうしても無理矢理聞き出すことは出来ないのだ。



「……優羽ちゃんって…すごいね…。」


「…何が?」


「だって私、今まで自分に感謝しようなんて考えたこともなかった。」



蒼空は優羽の顔を見た。



「少しは今までの自分を褒めてもいいのかな…?」


「少しじゃなくて、大いに褒めろよ。」



蒼空の落ち着いていた目から、また涙が溢れ出た。



「うんっ…うんっ!」



蒼空はハンカチで顔を隠して、嗚咽をこらえた。



優羽はもう一度立ち上がり、今度は蒼空の前に立ち、蒼空の頭に手を置いた。



「……よく…頑張ったよ…。お前すごいな…。」



優羽は蒼空の頭を2回なでた後、ポンポンと優しく叩いた。



蒼空は大声で泣いた。