「…私ねぇ、勉強が友達なんだよね~。」


蒼空は『独り言』を始めた。


「学校に行っても必要最低限のことしか周りとは話さないし、みんなから見たら面白くない子なんだよね…。」




〔…確かに、1年の時は挨拶と必要な事しか話さなかった。〕




「でも、周りにどう思われようと私は私。勉強ができたらそれで良かったの。」




〔その考え方は俺と似ている。〕


勉強をするきっかけやそれに対する想いは違うが、『周りは関係ない』という考え方は蒼空と優羽は同じだ。


優羽も周囲の様々な思惑が鬱陶しく思い、生徒会室を利用している。



「だから学園に入学して、レベルの高い内容の授業がすごく楽しくて、充実してたんだよね~。」



〔そうだよな…。〕



ほとんど会話はしなかったが、黙々と勉強に取り組む蒼空の姿は生き生きとしていた。




「…でも…1年の秋頃から……」


蒼空は少し考え、そして心を決めたように話を続けた。


「体調がおかしくなってさ…。息切れするし、いつものように勉強してても疲れるし…」


〔そんな頃から…〕


優羽は…いや、恐らく他の生徒も蒼空の不調に気付いていなかっただろう…。



「親が心配して、病院に行ったらさ…。心臓が悪いって言われてね…」


蒼空は少し下を向いた。


「……今日の体調不良は…それが原因…か?」


優羽は聞くだけのつもりだったのに、つい喋ってしまった。


でも、蒼空の母の話を聞いたときから〔きっとそうだろう〕と思っていたことをハッキリとさせたかったのだ。



「うん。迷惑かけてごめんね…」


蒼空は頷いた。


優羽は蒼空の返事を聞いて、改めて己の行動を恥じて怒りを覚えた。


「……謝るなよ…」

「…え?」


優羽は蒼空に向かって頭を下げた。



「謝るのは俺だ。ごめん。」

「えぇっ!?」



蒼空は優羽の言動に驚き、目をまん丸にした。



「えっ…えっ!?なんで優羽ちゃんが謝るの!?」

「…あの時、本当は動くのがつらかったんだろ?それなのに、俺が無理矢理帰らせた…。」



蒼空は優羽の言葉を聞いて、優羽の考えを理解した。



「無理矢理じゃないよ?あの時はだいぶ落ち着いてたし…」

「でも、すごい汗だったし顔色も…」

「あ~…あれは発作が出たときはいつもあんな感じだし、何より、発作が出るかもしれないのがわかってて学校に通うって決めたのは私だよ?」



蒼空は優羽を人差し指で指差し、



「私の意志と責任で、何があっても誰も責めることは無いの。」



蒼空はニコッと笑った。



「今日は優羽ちゃんと一緒に帰る貴重な体験が出来たし、私は嬉しかったよ?」



「…そんなことくらい、いつでもしてやる。」



優羽の思わぬ言葉に、



「……病気に感謝したのは初めてだよ…」



蒼空の顔色は今日一番の良色になった。