「お母さーん!お兄ちゃんの服の場所わかんない!」


2階から蒼空の声が聞こえた。


「え~?いつものところにあるでしょー?」


蒼空の母は立ち上がり、階段を昇って行った。







優羽は蒼空の母が見えなくなったのを確認してから、大きな溜め息をついた。



〔…頭の中、整理しないと…。〕



優羽は蒼空の事情を聞き、何をどうしたらいいのかわからなくなっていた。




とにかく、心臓疾患があり、無理できない身体だということは理解できた。


蒼空の母は、その事を優羽に話したが、今まで通りに蒼空と接してほしいという事もわかった。





〔…お母さんと話をしたことはなかった事にしとこう…。〕



優羽は今の会話を、自分の心の内に隠した。






「ごめんね~!着替え遅くなって~!」


蒼空の母が着替えを持って先に降りてきた。


「はい、息子ので悪いんだけど制服乾くまでこれで我慢してね~。」


「いえっ…ご迷惑おかけしてすみません…。お兄さん、他人が着ても嫌じゃないでしょうか?」


「だいじょーぶ!息子は今は一緒に住んでないし、そんなこと気にする子じゃないわよ~。」



蒼空の母は着替えを優羽に渡した。


脱衣所に案内されて着替えを促された。


優羽は言われるがまま蒼空の兄の服に着替えた。


着替えが終わりリビングに戻ると、蒼空も私服に着替えて2階から降りてきていた。


シンプルな薄いピンクの生地に白のドットが入ったワンピースを着ている。


優羽は初めて見る蒼空の私服姿に、少しドキッとした。



「あっ、良かった!サイズ大丈夫そうねー。」


蒼空の母は、優羽と蒼空の兄と背格好が似ていてよかったと言いながら、濡れた制服を乾燥機で乾かすためにリビングから姿を消した。




「…優羽ちゃんごめんね…?お母さん、いつもあんな感じなの…。」

「いや、明るくて楽しいよ。」


〔いつものお前みたいに〕


と心では思っていたが口には出さなかった。


「まぁ、確かに。うるさいくらい明るいのは確かだね~。」


蒼空は腕を組んで頷いた。


「…それで助かってる部分が沢山あるしね…」


蒼空は腕を組んだまま優羽の顔を見た。


「ね、制服乾くの時間かかるし、私の部屋に来てくれないかな~?」


「……えっ!?」


優羽は度肝を抜かれた。


「だいじょ~ぶ。襲ったりしないから安心して~?」


「お前なぁ…。」


〔それは男のセリフだろ…〕


優羽は蒼空の発言に呆れながらも、いつも通りの会話にほっとした。


「さっ!部屋案内するね~。」


蒼空は優羽の返事を待たずに、部屋へ案内した。