「カチャン」

扉の鍵が閉まる音で優羽はハッと目を覚ました。


報告書をチェックしている途中で居眠りしていたのだ。


机にうつ伏せになって眠っていた優羽の背中には毛布がかかっていた。


〔…帰ったのか…〕



身体を起こし、優羽は頬杖をついた。


懐かしい記憶を思い出し、今なら冷静にあの時のことを考えることが出来た。


〔何か事情があったんだな…〕


蒼空は特進組から万年追試組になった『落ちこぼれ』として周りから見られていたが、落ちこぼれはすぐに興味対象から外れ、注目の的は優羽ひとりになった。


当時の優羽は、唯一のライバルと認め、同じ状況で頑張る蒼空に裏切られた気分になり、正直腹立たしく、そしてショックだった。


〔今想えば、勝手な思い込みだな…〕


優羽が蒼空の事を他の万年追試組の生徒と同じ様に思えない理由は、今も蒼空をライバルそして『仲間』だと思っている自分がいるからだと自覚する事になった。


優羽は溜め息をつき、少し高ぶった気持ちを落ち着かせた。


〔それにしても…黒髪のあいつ…〕


夢で見た2年前の蒼空の姿をふと思い出した。


「ふぅー…」


もう一度溜め息をつき、優羽は片方の手のひらで顔を覆った。


少ししてから、優羽は毛布に残った蒼空の温もりを感じ悶々とする感情を抑えながら、報告書のチェックを再開した。