手続きが終わりひと段落した時、2人に声がかかった。
「よかった!間に合った!」
少し息を切らしてやってきたのは、
「優羽ちゃん⁉︎」
優羽が蒼空達の見送りにやってきたのだ。
「よかった〜!間に合わないのかと思ってたのよー?」
「えっ⁉︎何⁉︎」
思いもよらぬ優羽の登場に、蒼空はパニックになった。
「びっくりした〜?優羽ちゃんと驚かそうって秘密にしてたのよ〜?」
「えぇっ⁉︎」
「ごめん…。」
優羽は申し訳なさそうに謝った。
「じゃあ、今日予定があるっていうのは…。」
「ここに来るのが予定だったんだ。」
蒼空が治療の為に日本を経つ日が決定してすぐに、母親が優羽に話を持ちかけたのだ。
蒼空には予定があるので見送りに行けないと伝え、がっかりさせるのが心苦しかった…。
予定があるのは嘘ではなかったのだが。
『がっかりした分、会えた時の喜びは倍増よ‼︎』
と、母親に言われ決断したのだった。
しかし、優羽の予定がずれ込み、危うく本当に見送る事が出来なくなるところだった。
「はー…焦った。」
「大丈夫?ごめんね、無理させたんじゃない?」
上を見上げ、はーっと呼吸を整える優羽を、蒼空は下から見上げた。
「無理はしてないよ。嘘ついてごめん。」
優羽は頭を下げてあやまった。
「えぇ⁉︎何⁉︎やだっ優羽ちゃん!なんで謝るの⁉︎」
「え…いや…だから行けないって嘘付いたし…」
「でも来てくれたじゃない。嘘はチャラね!」
蒼空はニコッと笑った。
優羽はその笑顔にホッとし、微笑んだ。
「お父さんまだかしらー?ちょっと見てくるわね!」
母親は気を利かせてくれたのか、2人の側を離れた。
「とうとう…この日が来たんだな。」
優羽は少し目をそらしながら話した。
「うん。しばらく会えないね。」
「そうだな。携帯は持たないのか?」
蒼空は今時珍しく携帯不所持。とうとう高校卒業まで購入することはなかった。
「向こうに行ってから考える予定。お兄ちゃんがいるから、詳しく聞いてみるね。」
「そうか。お兄さんところに一緒に住むんだったな。」
蒼空の兄は学生の頃留学し、一度日本に帰国したが、社会人になりまた海外へ旅立った。
その兄の紹介もあり、蒼空は手術をすることになったのだ。
「携帯買ったら真っ先に連絡するからね‼︎」
「おう。待ってるよ。」
本当は今すぐにでも買って連絡を取れるようにして欲しいけど…。
優羽は内心そう思っていたが仕方が無い。
「優羽ちゃん、何持ってるの?」
蒼空は、優羽が何かが入った紙袋を持っていることに気付いた。
優羽もそうだったという感じで、紙袋に手を入れた。
「これ。」
優羽は蒼空に紙袋から取り出した物を渡した。
「…え?これ…」
蒼空は渡された物を受け取り固まった。
「俺、お前を見送ることしかできなくて、何もしてやれないから…。せめて向こうに行った時の気分転換に役に立つかなと思って…。」
優羽から渡されたのは『シャボン玉セット』だった。
「子供地味てるけど、俺は意外とこれが好きなんだ。」
優羽は少し恥ずかしそうに話した。
「何か嫌なこととかストレスが溜まった時…あと、さみしい時とかさ。シャボン玉を吹くとそれが身体から出て、空で割れて消える。それが何と無くスッキリするんだよ。」
蒼空が絶望していたあの日、生きる力をくれた優羽とシャボン玉。
それが目の前で、蒼空の背中を押してくれている。
蒼空の目からはボロボロと涙が流れた。
それを見た優羽はギョッとした。
「えっ⁉︎ごめん‼︎本当になにもできなくてっ。」
慌てる優羽の前で、蒼空は首を横に振った。
「…ううん!嬉しい‼︎」
涙を拭いながら、蒼空は優羽を見て笑った。
優羽からの思いがけないプレゼント。一生大切にする。
蒼空は胸いっぱいになった気持ちを、素直に言葉にした。
「ありがとう…絶対…絶対大切にする‼︎」
頬を赤く染め、目を潤ませながら、満面の笑みで伝えられた言葉に、優羽は手で顔を隠しながらプイッと横を向いた。
横を向いて見えた耳が真っ赤だ。
「うん………なんか……いや、なんでもない…」
「?」
蒼空はキョトンとした。
「どうしたの?」
「いやいや…なんでもないよ。」
優羽はなんとか自分を落ち着かせながら答えた。
その時。
「おーい、そろそろ時間だぞー。」
蒼空の父親が少し離れた場所から2人に声をかけてきた。
「あ、お父さん。」
蒼空はわかったよーと、手を振った。
「優羽ちゃん、いこ?」
「あぁ。」
優羽は、初対面になる蒼空の父親の元に向かった。