優羽は、蒼空の体調を気にしてゆっくりと歩いたが、学年棟に差し掛かったところで我慢ができなくなった。


「うえええっ⁉︎」


蒼空はびっくりして奇声をあげてしまった。


その声に校舎に残っていた在校生、卒業生達が振り向き、二人を見た。


そして、あちこちでざわめき立った。


「ちょっ…優羽ちゃん!おろして?大丈夫だからっ」

「嘘つくな。」


優羽は徐々に顔色が悪くなる蒼空が心配で、歩かせることをやめ、彼女を抱きかかえたのだ。


特進組と追試組が一緒にいることはかなり目立つ。その為、今までは2人の中には暗黙の了解があり、人前に一緒にでることは無かった。

蒼空は追試組の自分が隣にいると、優羽に恥ずかしい思いをさせてしまうと考えていた。なので、今は優羽へ申し訳ない状況になっている…以前に…


(はっ…恥ずかしい‼︎私が恥ずかしい‼︎)


蒼空は顔を真っ赤にして手で顔を覆った。


「…優羽ちゃん…ある意味罰ゲーム…」

「当たり前。しんどいのに言わなかった罰。」


優羽は恥ずかしさのかけらもなく、飄々と蒼空をお姫様だっこして廊下を歩いた。


すると、廊下の先から声がかかった。


「おっ、王子と姫〜!」


手を挙げて声をかけてきたのは一紗だった。

こっちこっちと手招きをしている。

生徒玄関に向かうつもりだったが、一紗が招いた通路は裏門までの最短ルートだ。
優羽は素直に呼ばれて、最短ルートを進んだ。


「裏門でお母さんが待ってるぞ。」

「ああ、わかった。」


優羽はスッと一紗の横を通り抜けた。

その時、一紗は蒼空を見てにかっと笑った。


「スカイ、よかったな!」

「ええ⁉︎」


何のことやら…蒼空はわけがわからず、ただ心を落ち着かせることに必死だった。


一紗が2人 の背中を見送っていると、後ろから声がかかった。


「元気だしなさいよね。さみしかったら話し相手くらいしてあげるわよ。」


ケリーも一紗の後ろで2人の姿を見ていたのだ。


「別に…さみしくない。」

「意地っ張りね。」


そう言うと、ケリーは一紗の背中をぽんぽんと叩いた。


「…元気になるよね?」


ケリーは一紗の肩に腕をかけ、もたれながら言った。


「もちろんなるさ。」


一紗が答え、2人で蒼空の姿を見送った。