どれくらい経っただろう。
優羽は蒼空が落ち着くまで、ずっと包み込んでいたが、蒼空がその態勢を崩した。
優羽の胸から離れ、下を向いたまま涙を拭いた。
「ごめん…制服濡らしちゃった。」
「いいよ、気にするな。」
蒼空はコクンと頷いた。
「お母さん、優羽ちゃんのとこに?」
「あっ!そうだった!連絡する約束してたのに!今から連絡いれるぞ⁉︎」
「うん。ごめんね。」
優羽は慌てて携帯で蒼空の母親に連絡し、無事であることを伝えた。
携帯を切り、優羽は蒼空の横に腰掛けた。
「それで?」
「え?」
優羽の問いかけに、蒼空はキョトンとした。
「何か言いたい事あるんだろ?」
母親が心配するのをわかっていて、あえて約束を破ってまでこの場所にやってきたのだ。
何もないわけがない。
「優羽ちゃんはなんでもお見通しね。」
蒼空はクスッと笑い、はーっと深呼吸をした。
そして、少しの沈黙の後話した。
「…優羽ちゃん。大学生になったら、私の事は忘れて。」
「え?それは無理。」
蒼空の発言に、優羽はさらっと返事した。蒼空はまたキョトンとした。
「なんで忘れないといけないんだ?」
キョトンとして動かない蒼空に、優羽が問いかけた。
「えっ…と…、今度手術…をする事になったんだけど、その後どうなるかわからないから…。」
「どうなるって、なにが?」
「……私の人生が…」
そう言うと、蒼空は言葉を詰まらせ、治まっていた涙がまた溢れ出した。
優羽はすぐに蒼空を胸に抱き寄せた。
「あのなー、お前の悪い癖だな。一人で強がるな、あと一人で泣くな。お前は一人じゃないんだからな。」
優羽はギュッと蒼空を抱きしめた。
「離れてもお前を想う気持ちは変わらない。お前にとって、俺が負荷になるとしても、絶対に忘れてなんかやらない。」
「優羽ちゃん…」
優羽は腕の力を緩め、蒼空の頬を流れる涙を指でそっと拭った。
「好きなんだ…お前を忘れることなんて絶対にできない。」
優羽と蒼空の唇が重なった。
「勝手なのはわかってる。でも…自分の為に…俺の為に生きて欲しい。」
蒼空は頬を赤く染め、そして涙をボロボロ流しながら頷いた。
「ありがとう…ありがとう、優羽ちゃん…」
蒼空は優羽の胸に顔を自ら埋めた。
「私、怖かったの、手術することを伝えるのが。これからどうなるかわからないし、もしかしたら…二度と会うことができないかもしれないし…だったら別れようって言われたらどうしようって思うと…」
「で、結果、言われる前に自分から別れようって?」
「…うん」
蒼空は下を向いて返事をした。
優羽はそれが可愛くて、蒼空の頭をなでなでした。
「バカだなー。まぁ、何をどう言われても別れてあげないけどな。」
優羽はギューっと蒼空を抱きしめた。
「俺が誰を想うかは俺の自由。その相手が一生お前だと決めるのも俺の自由。お前が帰ってくるのを何年でも待つって決めるも俺の自由だ。」
「ふふっ、俺様だね。」
「そうとも。」
2人はクスクスと笑い、薄明かりの中でもう一度キスをした。