優羽は唯一心当たりのある場所にやって来た。


切らした息を少し整え、優羽はポケットから鍵を取り出した。


「ガチャン…」


扉の鍵を開けた。


優羽はそっとドアノブを回した。


そこは幾度となく通った生徒会室。
今朝も卒業式の打ち合わせで訪れた場所だ。


朝は生徒会役員で騒がしかったが、今は誰もおらず、いつも通り机と椅子、生徒会役員用のペットボトルが机の中央に置いてある。


優羽は椅子の横を通り、入って左側にある資材室との連絡扉に向かった。


扉の前で一度立ち止まり、深呼吸をした。

そして少し汗ばんだ手でドアノブを回した。


音を立てることなく、静かに静かに扉を開けた。


小さな窓しかない資材室は、相変わらず薄暗い。


優羽は中へ一歩足を進め、窓際に視線を移した。


視線の先には小さな窓。
そして、その下にはシングルソファがある。


そして…


「…来てくれた。」


ソファにか弱く微笑む蒼空が座っていた。


その姿を見て、優羽は安堵の長いため息をついた。


「どうした?お母さんが心配してる。」


優羽はソファに歩み寄り、蒼空の前で立ち止まった。


そして、少しかがんで自分の胸に抱き寄せた。


「ゆっ…⁉︎」


蒼空は優羽の行動に驚き、目をまん丸にした。


「俺も…すっげー心配した!」


蒼空を包み込む腕は力が入り、優羽が本当に心配していたことが伝わってきた。


「ごめん…ごめんね…」


蒼空の声は潤み、目からは大粒の涙が流れた。


優羽のブレザーは涙で濡れ、蒼空の背中に回された優羽の腕はさらに力が入った。


資材室に蒼空の泣き声だけが響いた。