「駒居‼︎なにしているんだ‼︎早くしなさい‼︎」


無駄に声量がある教師の言葉が、もう一度優羽を呼んだ。


しかし、優羽はその呼びかけに答えず、顔面蒼白状態の蒼空の母親に声をかけた。


「学園内は俺の方が詳しいので探してきます。お母さんは裏門で待機していてください。何かあればすぐに連絡するので、携帯は持っていてください!」


「えぇ…。でも…先生が呼んでるわよ?」


蒼空の母親は、教師の呼びかけを気にしていた。


だが優羽にとって、お偉いさん方への挨拶なんて初めからどうだっていいのだ。


「気にしないでください。お母さんはとにかく裏門へ移動を。入れ違いになったら大変ですし。」


そう言って、蒼空の母親へ移動を促した。


「わかったわ。ごめんね、迷惑かけて。」

「迷惑だなんて…。頼ってもらえて嬉しいです。」


優羽はなるべく母親を安心させたくて、優しく微笑んだ。


「ありがとう。あなただけだもの…あの子の会話で名前が出てくるのは。」


蒼空の母親はそう言うと、お辞儀をして裏門へ向かった。


優羽は胸がむず痒くなり、頬を赤らめた。


周りの目を気にする余裕はなかった。


そんな時、今度は教師がやってきた。


「なにやってるんだ!早くしろと言っているんだ!」


挨拶回りをきちんとさせないと、担当者として評価が下がるのを恐れているのか…。教師は必死だ。


その姿を見て、優羽の気分は一転した。


そして、頑張っていた心の糸が切れた。


「先生?挨拶は担当者である先生がしてください。なんでも生徒に押し付ける学園の規則には本当に嫌気が差す。」

「なにっ⁉︎」


今まで一度も反論したことのない優羽の言葉に、教師だけでなく、近くにいた生徒も目を丸くした。


しかし、そんな事はもうどうでもいい。


「お偉いさん方にへこへこ頭を下げて、ご機嫌取りでもしてろ!俺は意味のない事はしない主義なんだ。」


そう言い放つと、ボー然と立ち尽くす教師を放置したまま、優羽はざわつく生徒たちの間をすり抜けて校舎の中に向かった。