優羽はドアノブを回し、静かに扉を開けた。


夕日が差し込む部屋のベッドに、蒼空はパジャマ姿で座っていた。


制服でもなく私服でもない。
白地にピンクのボーダー柄のパジャマ姿の蒼空を見て、優羽は胸の奥で心が飛び跳ねたのがわかった。


普通なら絶対に見ることのできない、よほど親しくないと見せることがないプライベートスタイルだ。



優羽にとって、お宅訪問も女子の部屋へ入ることも今だにハードルが高い。


なのに、ノックをして返事のない部屋へ入るのは強い抵抗があった。



しかし…



扉を開けて見えたのはパジャマ姿だけではなかった。



「…優羽ちゃ…」



驚いた表情のまま、目からポロポロと涙を流す蒼空がいた。

泣いているので、声がかすれている。



優羽の足は勝手に動いていた。


ほんの数秒前に感じていた抵抗なんかどこかにいった。



優羽は蒼空の元へ行き、屈みながら蒼空を自分の胸に引き寄せた。



頭と背中に回された手は、熱く、優しく、そして力強く蒼空を包みんだ。



優羽の胸に顔をうずめた蒼空は、今の状況を頭で整理しようとしたが無理だった。


そんなのはもうどうでもいい。


会いたかった人が今ここにいる。


蒼空は両手で優羽の前シャツを握り、声を出して泣いた。


泣き出した蒼空の頭を、優羽は優しく撫で、もう一度ギュッと抱きしめた。




「…ッ…ヒッ…ゆっ…優羽ちゃ…ん」


「…何?」


「…わっ…わたしっ…」


「うん」


「好きっ…なの…」



呼吸を整えながら、蒼空はうずめていた顔を上げ、優羽の顔を見た。



「私…、優羽ちゃんが好きっ…」



蒼空は嘘偽りのない気持ちを言葉にした。


言ったあとに恥ずかしさが込み上げてきて、顔が真っ赤になったのが自分でもわかったので、慌てて下を向いた。




優羽は蒼空の告白を、目を逸らさず受け止めた。
そして、蒼空が顔を真っ赤にする瞬間も見た。



蒼空の気持ち、蒼空の全てが愛おしく思えた。



優羽は下を向いた蒼空の顔にそっと両手を添え、もう一度上を向かせた。



そして優しく触れるように、おでこにキスをした。



蒼空は大きく目を見開き、さらに顔を真っ赤にした。



優羽はそんな蒼空を見て、微笑みながら胸に抱き寄せた。



「…俺もだ。」



優羽は蒼空の気持ちに答えた。



「俺もお前が好きだ。」



正直に自分の気持ちを言葉に出した。






こんなにも素直に、本能的な言動になるなんて…


「恋」の力は絶大だと感じた。