仮面が外れた彼の姿は、完全に普通の高校生になった。


必要以上に落ち着いた雰囲気は無くなり、少し荒わしい感情が滲み出ているようにも見える。


今までの姿は彼が創ったもう一人の彼なのだろう。


蒼空は覚悟を決めて優羽の反応を待っていた。




「………。いつからここに?」




優羽が重たい口を開いた。




「4時間目が始まる頃からかなー?」



蒼空は素直に答えた。



「4時間目から?あなたは授業をサボる余裕が無いのでは?」



優羽はどうやらまだ優等生を演じているつもりのようだ。


(駒居君って…負けず嫌いなんだ)


蒼空はそう思うとなんだがおかしくなって、吹き出して笑ってしまった。



「何がおかしい?」



明らかに彼の表情は不快感を表していた。


「だって、会長もサボってること多いし。人に偉そうなこと言えないよね?」



蒼空はとっさに答えた。



「!?僕は生徒会の仕事をしているんだ!君と一緒にしないでくれ!」



優羽は聞いたことのない大きな声で反論してきた。
頬も少し赤くなった。


その姿がまた珍しくて…可愛らしくて…。


蒼空はまた笑ってしまった。



「そりゃ~失礼しました。馬鹿と一緒にされたら気分悪いよね~。」



話しながら蒼空は使用していた毛布をたたみ、ソファから立ち上がった。


そして、今までで一番なんじゃないかと思うくらい優羽に近付いた。




「本当の会長の姿、みんなにバレたらどうなるのかな?」




蒼空はこの言葉に賭けてみた。




「…俺を脅してんのか?」




蒼空の賭けは勝利したようだ。

優羽は完全に素の姿を見せた。

優等生でいることを諦めさせたのだ。

蒼空はこそばゆい感情を抑えながら続けた。



「別に脅してる訳じゃないよ。交渉したいだけ。」



蒼空は冷静な振りをしながら話した。



「交渉?」



諦めた優羽は斜め上から蒼空を見下した。

見下されてるのに、その姿がかっこいいと思ってしまうのは恋してる証拠なのか。


「そっ!」



顔がにやけそうになるのを我慢しながら話を続けた。



「私は気が向いた時だけ授業に出てるから、サボることが多いの。だから保健室で体調不良を理由でサボるのに限界があって、いい場所がないか探してたらここを見つけてね。」



病気のことはもちろん隠した。



「…ここでサボることを許可しろと?」



優羽は蒼空の遠回しな言い方で、意味を理解してくれたようだ。



「ここ日差しきつすぎなくて、薄暗いから寝やすいしね。」




蒼空はチラリと小窓を見た。




「もちろん、その代わりに仮面優等生のことは誰にも言わない。」



(誰にも言うものか。)

蒼空は優羽にもう一度顔を向け、目をジッと見た。




「…どう?」




優羽はしばらく黙っていたが、



「お前が必ず約束を守る保証は?」



蒼空は目を輝かせた。



「だぃっじょーぶ!!私友達いないから!!」



これには自信がある。

蒼空は笑顔で、自分で自分に太鼓判を押した。



「わかった。許可するから約束は守れよ。」



優羽から嬉しい返事をもらうことができた蒼空は小さな子供のように、



「やったー!!」



こんなに心の底から喜んだのは初めてかもしれない。



「ありがとう!さすが会長、話がわかるね!」


「…勘違いするな。仲良くするために交渉したわけじゃない。」



完全に素になった優羽の言葉は、トゲがある。



「わかってるよ~。利害一致のためねー。」



しかし、そんなことは気にしない。むしろ新鮮だ。



蒼空はソファの横に置いてあった鞄を持ち、資材室の廊下側の出入り口に向かった。



「…2人だけの秘密だね…」



蒼空はこの言葉を噛み締めて部屋を出た。



この時から、2人の秘密の時間が始まったのだ。