蒼空と二葉は部屋に入るとベッドに座った。



「お兄ちゃん、いつもは落ち着いてるのに…。面白い!」



二葉は一紗の反応を思い出しププッと笑いをこらえた。



「あの…よくわからないけど、あんまりお兄ちゃんのこといじめたらだめだよ?」



蒼空は動揺する一紗を見て少し気の毒になった。


二葉は笑うのを止めて蒼空を見た。



「蒼空ちゃんって、好きな人いるの?」

「えっ!?」



二葉の突然の質問に蒼空はドキッとした。



「な…なんで!?」

「…なんとなく。お兄ちゃんのことどう思う?」

「え?一紗くん?」



なんで一紗くん?
蒼空は意味がわからなかったが、質問に答えた。



「一紗くんはすごく明るくて、気が利いて…一紗くんがいなかったら私はきっとクラスに馴染めていなかったから……恩人…かな?」



素直に答えた蒼空だが、二葉はガックリとうなだれた。



「そっかぁ残念!で、誰が好きなの!?同じ学校の人?」

「えぇっ!?」



二葉の質問は止まらない。



「好きな人なんて…」



『いない』ことはない。
でも、口に出してしまうのは…完全に認めてしまうことになりそうで勇気がいる。



「…内緒でお願いします。」

「えぇー!?なんでー!?」



二葉は蒼空の腕を掴んで迫ってきた。



「いいじゃん!教えてよー!ってか、やっぱりいるんだー!」

「うっ…さぁ…?」



蒼空は興奮する二葉にたじろぎつつ、こんな本格的な女子話初めてで…戸惑いと恥ずかしさと…何よりも楽しさを感じた。


胸の奥に感じるドキドキするようなソワソワするような…なんともいえない感覚が、蒼空の心を軽やかにした。



「二葉ちゃんはどうなの⁉」

「私?」



蒼空はこれ以上詮索されると話してしまいそうなので、二葉に話を振った。



「私はね〜いるよ〜、好きな人。」

「えっ!そうなんだ!」

「うん!」



二葉の目はキラキラと輝いている。



「同じ学校?」

「ううん。ちょっと年上の人。」

「年上かぁ。何歳上?」



自分の事を聞かれると戸惑うが、二葉の話を聞くのは楽しい。
蒼空は聞きたいことが次々浮かび上がってきた。



「何歳だろ?多分…7歳くらい上かな?大学生なの。」

「えー‼お…大人な感じだね…。」

「うん、大人って感じで格好いいんだよー!」



蒼空と二葉は恋話に火がついてキャーキャー騒いだ。



「私ね、病気が治ったら告白するんだー。」



二葉は蒼空を見てニカッと笑った。

蒼空は恋話で盛り上がった中で、さらっと発せられた二葉の言葉に驚いた。

驚いたが、二カッと笑ったその笑顔が可愛くて・・・。



「・・うん。告白の結果、絶対に教えてね?」

「うん。がんばるからね!」



二葉は満面の笑みを見せた。



その時二葉の部屋の扉がノックされ、一紗がお茶を持ってきた。

気のせいか少しムッとしているような気がする。



「お兄ちゃんまさか立ち聞きとかしてた?」

「は?何が?」

「ふーん・・。なんでもない。お茶ありがとう」



一紗は二人分のお茶をテーブルに置くと、



「じゃ、スカイゆっくりしてな。こいつに嫌なことされそうになったら叫べよ?」

「ちょっとなにそれー!?」



二葉は頬をぷくっと膨らませた。



「はいはい、ありがとう一紗君。」



蒼空はくすくすと笑いながら返事をし、一紗は無言で部屋から出て行った。

その姿を見送った後、二人はプッと噴き出して笑った。



「あれは聞いてたね!」

「そうだねー。」



蒼空は声が大きくならないように手で口元を押さえた。



「本当に、あんまりお兄ちゃんをいじめたら駄目だよ~」

「まあ、私だけじゃないけどねー?」

「えー?」



蒼空は言っている意味がわからなくてきょとんとした。

それをみて二葉はまた噴き出した。



「あはは!!なんでもない!!」



二葉は笑いすぎて流れた涙をふいた。


そして一呼吸置いて、



「蒼空ちゃん、私頑張るからね。」



二葉はもう一度ニカッと笑って、気持ちの強さを見せてくれたようだった。




蒼空はその笑顔を一生忘れることはないだろうと思った。