二葉の感情が落ち着いてから、時間が経つのはとても早く感じた。


TVゲームをしたり、二葉の部屋で色んな女の子のアイテムを見せてもらった。


「蒼空ちゃん、美人なのにメイクしないの?」


「うっ…美人って言われたことないし、メイクしたこともない…。なんだか苦手で…。」

苦手どころか、メイクセットなど持っていない。
本格的な女子話になってくると蒼空は許容範囲外になる。


「えーっ!!もったいないよー!そうだ、今からメイクしてあげる!!」


「えっ!?」


「さ、ここに座って?」


二葉は蒼空の返事を待たずにメイクを始めた。


「あの…えっと…」


「話したらダメ!メイクが終わるまではジッとしてて!」


「うぅ…はい…」


メイクを始めた二葉は、今まで女子話をしていた表情とは違い真剣だ。


あまりにも真剣なので、蒼空は逆らうことなくメイクが終了するまで大人しく待つことにした。




〔十数分後〕


「…できた…蒼空ちゃん見て?」


蒼空は二葉にミラーを手渡された。

蒼空は恐る恐る自分を見た。


「…っわー…」


「どう?いい感じでしょ?」


「なんか…私じゃないみたい…」


蒼空は初めて見るメイク後の自分が、想像していたよりも大人に見えた。
そして、徐々に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「なんか恥ずかしい!」


「なんで?スッゴく似合ってるし、やっぱり美人だよー!」


そういうと二葉は部屋の扉から廊下に顔を出した。


「お兄ちゃーん!ちょっと来てー!」


「えぇ!?」


二葉が一紗を呼んだので、蒼空は驚いた。


「どうした?」


一紗が二葉の部屋の扉を開けたので、蒼空は扉と逆の方向を向いた。


「あ、蒼空ちゃんこっちむいてよー!」


「…無理…」


二葉と蒼空を見て、一紗は一瞬で何かを悟ったのか、


「二葉お前…スカイにしたな?」


「何よー、別に悪いことしてないよ?メイクしただけ。」


「それだよ、それ!それがだめなんだよ!」


一紗は溜め息をついた。


「…前兄ちゃんにしたときに、金輪際しないって約束しただろ?」


「それは小学生の時の話しでしょ?あれからちゃんと勉強したんだから、今日の蒼空ちゃんは完璧だよ!」


「いやでも…あんなテクの持ち主が独学で上達するとは思えないぞ…」


2人の会話からすると、以前一紗は二葉にメイクをされて、ひどい完成度だったようだ。

一体どんな出来だったのか…。
男の子がメイクされること自体恐らく嫌だったのだろうに、一紗は二葉に弱いので許可したのだろう。


蒼空はメイクされた一紗の姿を勝手に想像し、一人で吹き出してしまった。


「どうしたの?」


急に笑ったので、二葉が驚いて蒼空を見た。


「あぁ、ごめん。メイクされた一紗君を見たかったなーと思って…」


「…俺を想像して笑ったな…」


一紗がムッとしたような口調になったかと思ったが、その直後…


「スカイの面白い顔みて笑い返してやる!」


一紗がドタドタと部屋に入ってきた音がしたと思ったら、後ろから両手で顔を挟まれて、顔を上に向けられた。


「変顔はっけーん!」


一紗が蒼空を上に向け、上から覗き込んだ一紗と顔が逆さに向き合った。


蒼空は防御する間もない出来事だったので無防備で、びっくりした表情で一紗を見た。


ふざけて蒼空の顔を覗いた一紗は、想像とは違ったメイク仕上がりに表情を固めた。


数秒2人は見つめ合ったままだったが、二葉がそれを破った。


「ねっ?いいでしょ?」


「…確かに…。全然違った…」


一紗はそういうと、覗き込んでいた顔と手を引っ込めた。


「…あんまり調子に乗ってスカイをいじめるなよ?」


「いじめてないし!」


「お前はそう思っててもなー…」


「はいはい、わかりましたよー!さ、男子はでたでた!」


二葉は一紗の腕を引っ張って廊下に出た。
そして自分だけ部屋に戻り、扉を閉める間際に、


「…お兄ちゃん、今、胸キュンしちゃったね♡」

「!?ばっ…!!」


一紗の反論を待たず、二葉はニヤッと笑って扉を閉めた。


一紗は廊下に取り残され、一人頬を染めた。