あっと言う間に夏休みになった。
恐らく普通ならやっとと思うだろうが、蒼空にとってはあっと言う間だった。


一紗の家にお邪魔する日がきたのだ。


蒼空は裾に小さな花柄の刺繍が入った淡い水色のワンピースにレギンス、上から白のカーディガンを羽織って人生初の友人宅訪問に臨んだ。


「顔の筋肉が硬直してるわよ?」


出掛ける前に母親に言われた一言だ。


〔硬直もするわよ…〕


蒼空は頭の中で会話のシュミレーションをずっと繰り返して、すっかり頭でっかちになっていた。


「そんなに構えなくてもいいんじゃない?相手はクラスメイトとその妹さんでしょ?今までお友達なんていなかったんだから、今までの分これから経験して楽しんで来なさいね。」


「うん…。行ってきます。」


蒼空は母親に背中を押されるように家を出た。
手には母親に持たされた手土産のお菓子を持っている。
母親には『クラスメイトとその妹』に会いに行くと話したので、女の子が好きな甘い系のお菓子を準備してくれていた。


蒼空はクラスメイトが男の子であることはあえて言わなかった。
母親の性格を考えると後々対応が邪魔くさい。


蒼空は一紗と待ち合わせしている駅に向かった。