2年になった4月。


始業式の日に、蒼空は初めて追試組の教室に入った。



「おはよー」



教室に入ってすぐに、蒼空に向かって声が飛んできた。



蒼空は声をかけられるとは思っていなかったので、一瞬ビクッとなった。



特進組では有り得なかった。



「あっ…おはよう。」



「あれ?初めて見る顔。一年の時は何組だった?」



蒼空に話しかけてきたのは、見た目からして今までの蒼空とはなれ合う事は無かったであろう、シルバーっぽい髪色をした短髪の男子生徒だ。



目は鋭い感じで、眉はほとんど無い。



「…えっ…と…」



蒼空はその見た目に身体を強ばらせ、質問の返事を一瞬躊躇し言葉を詰まらせた。



すると短髪男子が、



「あ、俺、真田。名前は?」



「あ…佐渡です。」



「佐渡…。よろしく。」



「あ…よろしく…」



「うん。」



短髪男子はニッと笑い、その顔はシルバー髪の眉なし外見に似合わず、意外に幼くに見えた。



「席ここ。俺の横だよ。」



「え?」



「真田、佐渡。俺の次だから。」




真田は蒼空が不審がったように見えたのか説明した。



「はい、サッサと座る。」



「あ、はい。」




蒼空は真田に促され、言われるがまま隣に座った。



なんだか落ち着かないが、蒼空は荷物をカバンから取り出し整理し出した。



「一紗ぁ、オハヨー!」



「おう。」



真田が呼びかけに返事をして手を挙げた。



〔一紗…女の子みたいな名前〕



蒼空は真田の名前を聞いて思った。



「…女の名前みたいって思っただろ?」



「!?」



蒼空はビックリして一紗を見た。



「その顔は当たり。」



「う…うん」



蒼空は正直に答えた。



「傷つくなー…俺、立派な日本男児なのに。」



「ご…ごめんっ」



蒼空は慌てて謝った。



「プッ!!ウソウソ!」



一紗はニカッと笑った。



「よく女の子と間違われるけど、俺はこの名前気に入ったるんだよ。間違われるから覚えてもらえるし。」



「なるほど…」



「だろ?だから覚えてくれたよな?」



「あー…確かに。覚えたね。」



蒼空はなんともなつっこい一紗のペースに流されるがまま会話した。



「あ、おーい!ケリー!」



一紗が登校してきた生徒に声をかけ、蒼空はまたビクッとした。



その姿をみて一紗が、



「あ、ごめんごめん!俺声でかいんだよなー」



と、笑った。その時。



「なぁに?」



蒼空の後ろから女の子の声がした。



蒼空は後ろを振り向いた。



そこにはきらめく金髪に青い瞳のスレンダーな女の子が立っていた。



「あら?あなたは?」



スレンダー女子は蒼空を見た。



「ケリー、この子佐渡…下の名前は?」



「あ、蒼空です。」



「この子、佐渡蒼空って言うんだ。今年から仲間入りしたんだ。」



一紗が蒼空を紹介した。



「そうなんだー。よろしく、ケリーよ。」



「よろしくお願いします。」



蒼空は間近でみる外国人にドキドキした。



「…いや、違うから。ケリーは生粋の日本人だから。」



「……えっ!?」



蒼空が完全に勘違いしていると察したのか、一紗が暴露した。



「もー!!一紗はすぐにバラす!」



スレンダー女子は腕を組んで怒った素振りを見せた。



「本当は日下部桂花って言うの。みんなケリーって呼んでるから、蒼空ちゃんもケリーって呼んでね!」



「そう…なんですね…。」



「あ、同じ歳なんだから敬語なんて無しよ!」



ケリーは笑顔で話した。



「このクラスはフレンドリーで過ごしやすいと思うけど、もしわからないことがあればいつでも聞いてね?」



「ありがとう。」




ケリーはにこっと笑い、自分の席へ歩いて行った。



「俺にも聞いてくれていいから。」



一紗はケリーの言葉に付け加えるように言った。



「ありがとう。」



蒼空は教室に入って数分で自己紹介をした。



特進組ならまず有り得ない。



そして、教室のあちらこちらで行われている生徒同士の挨拶や会話する姿を見ていると不思議に思えてきた。



〔特進組ではこんなフレンドリーな感じは無かったよね…。〕



全員が挨拶しないわけではなかったが、優羽のようにごく一部の生徒とごくわずかな接触をする事しか無かった。



〔なんだか変な感じ〕



蒼空は特進組の時との雰囲気の違いに、少し戸惑いを感じた。