キーチはTシャツにジーンズというラフな格好で、年上の先輩達とそう変わらないように見えた。
私の知らない先輩達に囲まれ、楽しそうに話をしている。
とてもじゃないけど、私なんかが酒を注ぎに行けるような雰囲気ではない。
仕方なく私は友実の隣で、彼女の仕事に対する不満や、新しい彼氏の話なんかを聞いていた。
会の途中。
幹事を務める先輩の進行で、参加者全員がキーチにはなむけの言葉を贈る時間がとられた。
みんながひとことずつキーチに何か言って、彼からもひとこともらうことができたのだが、
私がキーチと言葉を交わせたのは、ただこの数秒間だけだった。
なのに私はいい言葉を考え出せず、「カナダに行っても頑張ってください」というありきたりの文句しか言えなかった。
キーチが「ミッチもね」と微笑むと、私が握っていたマイクは早々と友実に取り上げられた。
「キーチ、あっちに行っても浮気とかしないようにね!」
会場から爆笑がわき起こるのを聞きながら、
私はこれで全部終わったんだと自分の胸に言い聞かせていた。

