そのとき廊下の方から深雪ちゃんを呼ぶ声がした。
見るとコートを手にしたキーチが「なんだ、こんなところにいたのか」とやって来る。
これまた偶然の再会に私は固まってしまった。
「あれ…、ミッチ…?」
私に気づいたキーチが声をかけてくれた。
お腹が出始めた姿を見られるなんて恥ずかしかったし、久々に顔を合わせたので緊張したが、無理矢理明るく振る舞った。
「キーチ…、子どもが生まれたんだってね…。おめでとう」
たぶん私の顔はひきつっていたことだろう。
キーチは私が引きずっている点滴に目を向け言った。
「何…、ミッチはここに入院してるの?」
「うん、切迫早産になっちゃって…」
「そっか…、お大事に」
キーチは私にそう言うと、深雪ちゃんに「帰るぞ」と告げ、再び廊下へ戻って行った。
深雪ちゃんは私に頭を下げると、急いでキーチを追いかけた。
遠ざかっていくふたりの後ろ姿を見て、
私はキーチがホントに遠い人になっていくのを感じていた。

