彼女のすべてを知らないけれど


夜の神社に忍び込めたのは、ミコトが裏道を案内してくれたおかげ。然の家族がよく使う出入口なのだとか。


木々が風に揺れる音。夜空に輝くいくつもの星座。

アパートを出た頃より、気持ちが落ち着いている。これも、神社がかもしだす不思議な力のせいなんだろうか。

「まさか、部屋に女の子がいるなんて思わなかったよ」

俺は言った。

「かと思えば、今度はミコトが来なくなるし。ちょっと寂しかったんだよ、これでも」

「何を言っている。ようやく男子学生らしいイベントが発生したというのに。ややキツそうな性格だが、可愛いコじゃないか。もっと素直に喜んでもいいと思うがな」

「心からそう思えたらいいんだけどね……」

いつも通り茶化してくるミコトに、俺は神妙な顔を向ける。

「分からないんだよ。どうして、ウィンクルムは俺の元に来たんだろう?

どういう経緯か知らないけど、猫だった時に彼女は、前の飼い主と別れてる。《絆》を意味する名前を付けてくれた飼い主と……。そういう思い出って、簡単に捨てられないと思うんだ。少なくとも、俺はそうだから。

だったら、彼女は、人間になった自分で前の飼い主に会うべきじゃないかな?俺なんかに関わってないで、大切な名前をくれた飼い主に再会したいんじゃないかな?

なのに、どうして俺なんかのところに来たんだろう。俺は、猫だったあのコを……ケガをしてるのにこの神社に置き去りにした最低な人間なのに……!」