彼女のすべてを知らないけれど



合鍵の件で、ウィンクルムは後にこんな言い訳をした。

「あなた、実家で鍵を無くしたことがあるんでしょう?」

「なんで、それを!?」

「4月頃だったかしら。あなた、大学の友達と歩きながら、そんな話をしていたじゃない」

「えっ、まあ、たしかにしたかもしれないけど」

そういえば、大学からの帰り道、然とそんな話をしたことがある。たしか、入学して少し経ってから。

実家に住んでた頃、俺は、家の鍵を側溝に落としてしまったことがある。その時は結局、裏庭に回り込んでリビングの窓から家に入ったんだ。中学三年、放課後に帰宅した時の話だ。

あの時はたまたまリビングの窓に鍵がかかってなかったから良かったが、父さんや母さんのいない時間帯だったから、かなり冷や汗をかいたっけ。

「以来、合鍵は常に持ち歩くようになったんだ。

でも、どうして、ウィンクルムがそれを知ってるの? まさか、然に聞いたわけじゃないよね?」

「まさか」

ウィンクルムは冷めた口調でため息まじりにつぶやく。

「あの辺一帯、私の散歩コースだったからね。通りがかりに、たまたまあなた達の会話を聞いてしまったのよ」

「そっか、それで、合鍵をあんなにたくさん作ってくれたんだね」

同居する前から元猫の女の子に心配かけてるなんて、俺はなんて情けないんだ。

ガックリうなだれる俺に向かって、ウィンクルムは再びため息をつく。

「勘違いしないで。合鍵を作ったのはあなたのためじゃないわ。あなたのミスのせいで私まで外に閉め出されたんじゃ、たまったものじゃないから」

「だ、だよね」

「そうよ。猫の体ならとにかく、私は今、あなたと同じ人間なの。しっかりしてちょうだいね」

「はい、すみません。以後、気を付けます……」

これからは、鍵を無くしたり拾えない場所に落としたりしないように気をつけなきゃな。

ウィンクルムの言う通り、人間の女の子を一晩中外に閉め出すなんてダメだしね。