彼女のすべてを知らないけれど


女の子と同居することになるなんて、ちょっと前では想像もつかなかったし、こうして彼女と向き合っている今も実感が持てない。

驚いたりためらったりする間もなく、彼女は言った。

「そうと決まれば、これを預かるわ」

冷蔵庫の横にかかっているアパートの合鍵。3本あるうちの1本をサラッとつかみ、彼女はそれをジッと見つめた。その様子は、まるで、長年探し求めた秘宝を最終ボスの手から取り戻し安堵する勇者みたいだ。

知らないコに合鍵を渡すのはやや抵抗もある。しかし、「何か言いたげね」と、淡々とした目で見つめられたら、何も言えなくなってしまった。

「いや、合鍵渡すのはいいけど、出掛けたりできる? ほら、君はその、人間になったばかりだし!」

適当に思い付いた言葉で、気まずい空気をごまかした。

「あなた……。心配しすぎよ。私はこの辺りに住んでいたんだから、この辺り一帯は庭のようなもの」

「そっか、それもそうだよね」

ははは、と、笑ってみる。猫だから、人間が知らない道とか色々知ってるのかもしれない。そのうち教えてもらおっと。

「ところで、君の名前は何ていうの?」

訊いた瞬間、しまったと思った。捨て猫だった彼女に、名前なんて無いのかもしれない。無神経な質問だったよな……。