「彼女は、再三に渡る我の告白を最終的には受 け入れ、一緒に暮らしてくれた。そう、夫婦( めおと)になってくれたのだ。
実に幸せな日々だった。我の生きた時間の中で もっとも貴重な時だった。
――そのうち彼女は我との間に子供を授かり、 何十年か生きた後、年老いて死んでいった。
死に際、彼女は一人の男の名前を口にした。「 イサ……」と……。天空の城に住む前に彼女が 心から愛した男の名前だ……。
彼女がなにゆえイサの元を離れたのか、我はだ いたい分かっていた。分かっていても、我が彼 女に愛されることはないと知り、悲しかった。 また、彼女の心の翳(かげ)りを消してあげら れなかったことが悔しかった。
――でも、彼女といられた我はどこまでも幸せ だった。
永遠に両想いにはなれなかったが、彼女は我と 過ごす時間を選んでくれた。それはたしかなこ と。
彼女に出会えてよかったと……。彼女に恋をで きてよかったと心から思う。
痛みだけではなく、ひとりでは知ることのでき なかった喜びを与えてもらったのだと思う」


