彼女のすべてを知らないけれど


「失うことでこんなに悲しい気持ちになるのな ら、ウィンクルムと出会いたくなかった……」

こんなこと、言いたくないのに……。

本心じゃない本心が口をつく。

言葉すら出てこなくなると、今度は涙が止まら なくなった。

ミコトがこっちをじっと見ているのが、気配で わかる。人前でこんなに泣いたのは、幼稚園の 時以来だ……。

どのくらいの間、泣いていたんだろう。

夕日に満ちた客室が夜の訪れを感じさせる時ま で、ミコトは黙ってただ、そこにいた。

「……わかるぞ。今のお前の気持ち。痛いくら いにな……」

これから我が口にするのはただの独り言だ、聞 き流してくれてかまわない。そう前置きをし、 ミコトは語り始める。

「我は永遠の片想いをしている。

はるか昔の話だ。こことは違う遠い世界に、人 間と変わらぬ外見を持ちながらも魔術や魔法、 剣術を使える者が存在していた。そういう者達 はそれぞれ、魔術師、剣術師、魔法使いと呼ば れていた。

我はその世界で、一人の魔法使いの女に出会っ た。青い瞳にブロンドの髪を持つ、気の強い女 でな。

彼女は自分の魔法が人々を不幸にすると考え、 一人天空の城で孤独に暮らしていた。

彼女は誰ともつながることなく生涯を終える覚 悟をしていたが、顔を合わせるたび、我は彼女 を好きになっていった。ひたむきで強くて、弱 さを他者に見せまいとする健気さが魅力的であ ると同時に放ってはおけなくてな」