彼女のすべてを知らないけれど


「ミコト……!」

ミコトに会いたい。その一心で命守神社に走った。汗ばんだ体からさらに汗が吹き出てくる。

有名な神社なだけあって、夕暮れ時でもけっこうな数の参拝客がいた。

人のいない裏手に回り、命を司る神の姿を探す。

「おいおい、こんな時間に来られても困るぞ」

困ると言いながらも、いつもの明るい調子でミコトは現れた。

「ここは人目につく。こっちへ来るがいい」

ミコトは、然の自宅にある客室に俺を案内した。和っぽい部屋なのにソファーが置かれていて、重厚感が漂う。

初めてこの家へ来た時のように、新しい畳の匂いが鼻孔を刺激した。

あの時の自分を……。恋を知らなかった頃の自分を思い出し、やけに懐かしくなる。

あの頃は、人間のウィンクルムに出会ってすらいなかったんだよね…。

もう、彼女との間に起きたことは全て終わってしまったのだろうか。本当に……?

確かめるためミコトに会いに来たのに、ここへ来て逃げたくなった。

客室の高そうなソファーに腰を沈めた瞬間、心臓がドクドクと嫌な音を立てる。こわい。

全てなくなってしまったんだと知るのが、こわい――。