彼女のすべてを知らないけれど



「あなたに出会えたから、私は人という生き物に失望せずにすんだ。あなたの優しさがあったから猫として生(せい)を受けたことに誇りを持つことができた。ここまで生き延びて……。あなたと幸せな時を過ごすことができた……」

ウィンクルムはこぼれ落ちそうなほどの涙を浮かべてつぶやいた。

「私はもうじきこの世から消える運命なの。だから、どうしても言えなかった。あなたのことが好きだって。でも、何も言わないまま離れ離れになるのはやっぱり嫌だった……」

「そんな……。どうして……?消えるなんてウソでしょ?」

まだ、ウィンクルムとやりたいことがいっぱいある。

秋祭りでたこ焼きを一緒に食べる約束も達成してないし、冬にはクリスマスのイルミネーションを見たい。年越しに命守神社のおまつりに行きたい。

両想いなのだと分かった今はなおさら、そういう特別な思い出を二人で共有したいと強く思う。

「ウソだよね?からかって楽しんでるだけだよね?」

「病人をからかって楽しむほどのドS属性は持ち合わせていないわ。本当のことなのよ。それに、そう願ったのは私なの」

自分を捨てた人間を見つけたらすぐに人間をやめ天に昇るつもりだった。だから、お守りを使った時も『短命でいいから人間に生まれ変わりたい』と願った。

ポツリポツリと、ウィンクルムはそう語った。どこまでも落ち着いた口調で……。