「バイトで疲れてたって、1分くらい時 間取れるはずじゃん!その間に連絡くれ ればこっちは安心するのに、2日間返事 ない日とかザラで、頭にくる!こっちは いつもモヤモヤしながら待ってんの に!」
「バイトきついから、自由時間くらい寝 たいんだよ。大学もあるし。それに、こ のバイトしてんのはお前のためでもある んだ」
「え!?」
里桜がきょとんとしている。タクの返事 が意外なんだろう。
「お前、高校の時からスイス行きたいっ て言ってただろ?キッカケは、高校の時 たまたまかりたアニメのDVDだったっ け。それの舞台に出てきたいい所だから 直接見に行きたいってしょっちゅう言っ ててさ。それ用の貯金してるんだよ、 今」
「そんなの、別に頼んでないし……」
里桜は泣きそうな顔になっている。
「頼まれなくても連れてってあげたいと 思うだろ?なのにお前ときたら、飽きら れただのないがしろにされてるだの嫌味 ばっか言ってきてさ。その上、遠く離れ た湊んちにいるって聞いて、混乱した! 誰が、飽きた女のためにここまでする よ?」
「タク……」
そっか……。里桜のことをかまえないく らいタクがバイトで忙しくしてたのは、 彼女を喜ばせるためだったんだ。本当な ら、旅行資金がたまるまで、そのことは 秘密にしておきたかったんだろう な……。
「そんなの、言ってくれなきゃ分からな いよ……」
里桜は泣き、タクに抱きついた。
「でも、ありがとう。色々ごめんね」
「俺も、何も言わずに突き放して悪かっ たよ。だから、もう泣くな」
そう言い抱きしめ返すタクの声はどこま でも優しくて、俺まで感動した。
そして、本音をぶつけあって関係を深め ていける二人のことがうらやましかっ た。
里桜とタク。高校時代から二人を見てた はずなのに、こんなに幸せであたたかく て寂しい気持ちになるのは、この時が初 めてだった。
少し雑談した後、二人は地元に帰って いった。
「湊、ありがとう。色々とごめんね。ま た今度、長期休みとかにタクと遊びにく るね!」
「里桜のこと、ごめんな。またもしコイ ツが迷惑かけるようなことがあったら、 迷わず俺に言ってな」
「うん、そうするよ。気を付けて帰って ね」


